伊庭貞剛●1847年、近江国(現滋賀県)生まれ。司法官を経て、79年、現在の銅精錬業を手がける住友(現住友グループ)に入社。1900年、同社の第二代総理事に就任した。

明治は、近世と近代とが不思議な融合を見せた時代である。維新の元勲もそうだが、江戸期に生まれ、基本的な精神を近世的教養によって培われた人々が近代化の牽引役となるという不思議さ。それは経済の世界においても同様で、その奇妙な融合によって、今ではちょっと考えにくい奇跡のような経済人も登場している。伊庭貞剛は、まさにそうした人物であった。

合議制の確立など、住友の近代化に大きく貢献した伊庭であるが、なかでも最大の功績は、別子銅山煙害問題解決への尽力であった。

明治20年代半ば、精錬所が出す亜硫酸ガスが深刻な環境破壊を生み、農民の直訴騒動などに発展していた。一触即発の状況の中で、伊庭は住友の代表者として現地に乗りこみ、問題解決に乗り出す。

(図版=奈良雅弘 図版デザイン=ライヴ・アート)