スティーブ・ジョブズ●アップル社CEO。1955年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。スティーブ・ウォズニアックらとアップルコンピュータを設立、商用パーソナル・コンピュータで世界初の成功を収めた。
スティーブ・ジョブズの「エゴイズム=顧客志向」
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スティーブ・ジョブズの「エゴイズム=顧客志向」

人は自己の感情に蓋をして生きている。退屈な授業にも付き合うし、馬鹿な上司にもキレたりせず、追従など言いながら勤め続ける。買い物にしてもそうだ。本当に気に入って買うことなど滅多になく、大半は「まあこんなものだ」と、諦念にも似た気持ちで買っている。まともな大人はそんなことで騒がない。それが世の良識というものなのである。

そうした良識に抗い、自己の感情・感性に殉じることで巨大なビジネスを生んだ人物がいる。スティーブ・ジョブズである。周囲との軋轢を意に介さず、自分の完璧主義を押し通す彼の強靭なEQ(感情知能)がなければ、iMacもiPodもiPhoneもありえなかった。1人の人間の内面が世界を動かすという稀有な事例を、私たちに目撃させてくれた人物なのである。

アップル社の商品を使って気づくのは、その操作性やデザイン性の圧倒的な高さである。それらは、これまで顧客自身が意識すらしていなかった、他社製品の「不便さ」「格好悪さ」を白日のもとに晒し、顧客の内面に新たな「基準」を生み出すことで、アップルへのロイヤルティを不動のものにする。「まあこんなものだ」という、他メーカーと顧客の間の黙契を、完膚なきまでに破壊するのである。

(図版=奈良雅弘 図版デザイン=ライヴ・アート)