京都の人気飲食店「佰食屋」では、さまざまな背景の人が働いている。代表の中村朱美さんは「いいと思った人を採用していたら、たまたまそうなっただけ。人はみんな少しずつ違っていて、フォローし合っているのだから、職場でも同じようにすればいい」と語る――。

※本稿は、中村朱美『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』(ライツ社)の一部を再編集したものです。

最初は「シングルマザー」の採用から始まった

「佰食屋では、なぜダイバーシティを実現できたのですか?」。

これだけ世の中で「多様性の時代」と言われ、講演でも高い関心が寄せられていると感じます。経済産業省は「グローバル時代の競争戦略としてダイバーシティ経営を推進するべきだ」として、「新・ダイバーシティ経営企業100選」を選定しています。ありがたいことに佰食屋も2017年に選出していただきました。

では、なぜ佰食屋はダイバーシティを実現し、さまざまな背景の人が働いているのか。

その答えは「いいと思った人を採用していたら、たまたまそうなった」です。拍子抜けするような答えでごめんなさい。でも、本当にそうなんです。

いわゆる「マイノリティ人材」を初めて採用したのは、シングルマザーのAさんでした。

面接をしていて、あぁ、とても感じのいい人だな、ぜひうちで働いてほしいな、と思っていたところ、Aさんが言いにくそうに、こう打ち明けてくれたのです。「実はわたし、一人で子どもを育てていまして、親に手伝ってもらってはいるのですが、もしかしたら、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれません」。

わたしは、まったく「えー!?」とも「どうしよう……」とも思わなかったのです。「ふーん、そうなんや」。それくらいです。たしかに、子どもが急に熱を出すかもしれないし、親に預けられないこともあるかもしれません。けれども、わたしか夫が代わりにシフトに入ってフォローすれば問題ないな、と思ったのです。

難聴の人を断ってから、ずっとモヤモヤしていた

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/AH86)

その次に採用したのは、難聴のあるHさんでした。

ただ、Hさんのときは、ちょっと悩みました。当初、Hさんは西院の佰食屋に応募してこられたのですが、カウンター席のみのお店のため、どこにいても必ずお客様から声をかけられることになります。さすがにお店のザワザワのなか、声の小さいお客様が来られるとちょっと難しいかも、といったんお断りしました。

でも面接が終わって、家に帰ってからも、ずっとモヤモヤしていました。「もしわたしたちが採用しなかったら、あの人はこれからどうするんだろう。わたしたちにできることが、もっとあるんじゃないか……」。

それで、もう一度その日に電話してみました。「もしかしたら、ほかのお店に勤めていただく形なら大丈夫かもしれない。もう一度相談できませんか?」と、大きな声で。そして改めて面談して、「佰食屋から電車で3駅のところにあるすき焼き専科というお店であれば、厨房が独立しており、その厨房内で鍋の仕込みやご飯の盛り付け、洗い場といった、あまりお客様と多く接しないポジションの仕事があります。そこでなら、難聴だったとしても問題なく働くことができるかもしれない。少し遠くはなりますが、そんな働き方はどうですか?」と尋ねたところ「ぜひやってみたい」と。そして、Hさんを採用することにしました。