「普通の人」なんて世の中に一人もいない

マイノリティ人材を採用すると、イレギュラーな対応はもちろん増えます。

けれども、そもそも、マイノリティとはどういった人のことでしょうか。シングルマザーや聴覚に障がいのある人、高齢者、外国人、家族介護中の人、うつ病の人、LGBT(性的マイノリティ)……。

じゃあ、一人暮らしの若者は? 怒りっぽい性格の人は? 一人暮らしの若者は、無茶な生活をしてしょっちゅう遅刻したり体調を崩したりするかもしれないし、怒りっぽい人は、ずっとイライラ当たり散らすばかりで、周りがつねにフォローしなくてはならないかもしれません。

「普通の人」「マジョリティ」なんて、世の中に一人もいないのではないのでしょうか。

結局のところ、みんな少しずつ違っていて、みんな少しずつフォローし合っている。そうやって人は暮らしています。それと同じように、同じ職場で働くのも、できる人ができない人をカバーすればいいし、できる人とできない人が入れ替わることだってよくあります。フォローする回数がちょっと増えるくらいなら、どうとでもなることです。

シングルマザーのKさんのお子さんが立て続けに体調を崩し、しばらく休まざるを得なかったとき、従業員のみんなにはこう話しました。「彼女のフォローはわたしたちがするから、みんなは気にしないで。どうしても小さな子は体調を崩しやすくて、Kさんが悪いわけじゃない。きっと彼女がいちばん心の中で苦しんでいるから」と。

従業員が多様化したらお客様も多様化した

結果として、佰食屋はどのお店も多様性のある職場になりました。それによって、思わぬ形でポジティブな影響がありました。

来られるお客様さえもダイバーシティになってきたのです。

外国人のお客様がとても多いのは、これまでお伝えした通りです。また、障がい者や高齢者が来られても、雰囲気はなにも変わりません。すき焼き専科と肉寿司専科のお店はどちらもエレベータのない2階にありますが、従業員みんなが自然に手伝います。

ある従業員は、階段を降りられなくなってしまったご婦人に「おばあちゃん、背中乗って!」とお声がけして、おんぶして1階へお連れしたこともありました。片足が義足の人をお座敷席へご案内したときには、「こちらで足を拭いてくださいね」と、従業員が自然にタオルをお渡ししていました。

特にマニュアルがあるわけではありません。それでも従業員が自然に対応することができるのは、普段から従業員同士の多様性のなかで、お互いに助け合い、なにをどうすべきなのか、どんな場合に困ることがあるのか、学びとれているからだと思います。