4番目が、筆者の取材に「上場なんかやめてしまえばいいんだ」と怒りをあらわにするアナリストもいたほど、拙劣な情報開示とガバナンス体制である。もともとファクトリーオートメーション業界はディスクロージャーに消極的な会社が多いのだが、中でもキーエンスはひどいとされている。このため、「責任を持って投資判断を提供することは難しい」と、アナリストレポートの提供を拒否している証券会社もある。
リーマンショックを乗り切ったことを受けて、引き続き市場軽視の情報開示姿勢で、ライバルに見劣りする配当政策などに投資家の理解を得られるかどうか、注目のポイントになるだろう。
最後に触れておかなければならないのが、企業カルチャーの問題だ。税制改正により、2012年4月から法人税率の引き下げが適用されることに対応して、3カ月と9カ月の変則決算に変更して、その恩恵で40億円とも言われる節税効果を享受する一方で、有価証券報告書やホームページでは2期の変則決算を合算して実質最高益を強調したり、85年に製造部門として100%子会社のクレポを設立・保持したりしているにもかかわらず、対外的にはファブレス・カンパニーをセールストークにするなど、同社はスレスレのレトリックで「独善的ないいところ取り」経営を行ってきた。
過去を振り返っても、ゼネコン、証券、銀行、航空、電力などいずれも一時は盤石に見えたにもかかわらず、独善に陥った途端、傲慢になり、深刻な経営危機を招いた企業は枚挙に暇がない。リーマンショックを乗り切った今こそ、キーエンスにとっては危機なのかもしれない。
※1:創業者の滝崎武光会長はキーエンスの発行済み株式の7.71%を保有する。米経済誌フォーブスは「Japan's 40 Richest」(2013)で、滝崎氏について、日本の富豪で7位、資産は47億ドルと報じている。
※2:平均年齢は34.3歳、平均勤続年数は10.6年(2013年3月末)。リクルート用サイトでは平均年齢の若さや平均勤続年数の短さについて、「(会社設立が1974年、新卒採用の初実施が1982年と)他の大手企業と比べると会社ができてからの年数が浅いということです」と説明している。
1960年、大阪府生まれ。神戸商科大学(現・兵庫県立大学)商経学部卒業後、日本経済新聞社に入社。経済部キャップ、ワシントン特派員などを歴任。雑誌編集者を経て、2004年に独立。著書に『JAL再建の真実』『東電国有化の罠』『日本郵政解き放たれた「巨人」』などがある。取材・執筆活動の傍ら、総務省タスクフォース委員や甲南大学講師も務める。