自販機の位置を変え、売り上げ75%増

私たちが取り組んでいる行動観察とは、この優秀な営業マンと同じように自分のフレームを外し、人間の行動を分析し、問題解決法を提案する手法です。

行動観察のプロセスは「観察」「分析」「ソリューション」の3つに分けられます。

第一の観察とはフィールドに入りこみ、事実を集め、気づきを得ること。分析は、メモや撮影したビデオを見直しながら気づきを共有化し、解釈を行うことです。これは仮説の立案に必要なプロセスです。行動を解釈するにあたって、私たちは心理学や人間工学、エスノグラフィーなどの知識を駆使しています。最後に、具体的にどういう製品やサービス、運用にすればよいかソリューション案を考えます。

以前、私たちが行動観察を行ったスーパー銭湯の事例をもとに、プロセスを説明しましょう。

午前10時の開店から深夜1時の閉店まで、私たちは1日15時間の調査を2日間実施し、お風呂や飲食店など施設内で行動観察を続け、113項目のソリューションを考えました。

その1つは待合コーナーに設置された自動販売機の並べ方を変えること。結果、なんと売り上げは75%向上したのです。

待合コーナーを観察してまず気づいたのは、そこにいるのは男性と子供がほとんどという事実でした。女性のほうが身支度に時間がかかるため、家族でスーパー銭湯へ行くと、父親と子供が待合コーナーで母親を待つことになるわけです。

飲み物を買うのは主に子供です。以前は自販機も子供に売れそうなものが一番よい場所に設置されていました。そこでもう1つ、気づきを得ました。子供が飲み物を買うには父親の承認がいるという事実です。父親が先に飲み物を買えば、子供も飲み物を買ってもらえるようになるのではないかと考えました。

風呂上がりに父親が飲みたくなるコーヒー牛乳などを前面に出す形に、自販機を配置し直そう。これが私たちのソリューション案です。結果、前述の通り売り上げが大幅に伸びたのです。