放っておいても30代までは大丈夫だった
僕が初めて腰痛を経験したのは、高校2年のときでした。アメリカンフットボール部に所属していたのですが、試合中に突然、腰に強烈な痛みを感じました。病院で診てもらうと、アクセサリーボーン(有痛性外脛骨)と診断されました。骨に突起があり、それが当たって痛みが出ていたのです。有効な治療法もなく、フットボールはやめました。やめてみると、痛みは治まり、しばらくは問題なかったのですが、30代になってから再発しました。当時は、一橋大学で研究をしていて、座っている時間がとても長かったのが原因だと思います。加えて一橋大学に籍をおきながら、米ハーバード大学で学位論文も書いていたので、飛行機で何度も行き来していました。毎度15時間近くをエコノミークラスで行き来していたので、腰痛が再発したのです。まあ、腰痛とストレートネックは職業病ですね。
一橋大学名誉教授。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学で歴史学博士号取得。高校時代にアメフト部に所属し、クオーターバックを担った。その後、音楽活動を経て、大学教員の道へと進んだ。
それでも騙し騙し過ごしていたのですが、30〜40代になるとテニスやゴルフをやっていたので、慢性的に腰や首に痛みを感じるようになりました。当時、一橋大学の研究室の隣が経営学者の野中郁次郎先生の研究室でした。テニス仲間の野中先生も同じように腰痛や肩こりに悩んでいました。腰痛は学者病なのですね。大学の近所で、2人でマッサージを受けたり、湿布を貼ったり、いろいろ試しましたがよくなりません。その頃、「組織の自己組織化理論」に取り組んでいた野中先生は突然、「米倉、マッサージはダメだ、腰痛に対するアプローチは自己組織化をベースとした鍼灸がいい」と結論づけたのです(笑)。「自己組織化」は野中さんが提唱していた経営理論で、計画的中央集権組織より、各部署に自由・自立性をもたせた自立分散型組織のほうが活性化するというものです。これを腰痛に当てはめると、「腰が痛いからといって、骨や筋肉に外部からアプローチしても意味がない」。むしろ、筋肉や神経に刺激を与えて自己回復力を促す「鍼」がいいというのが結論でした。確かに、ツボに鍼を打ってもらうと、筋肉が刺激され自己回復に向かうように感じますね。
「推拿」という中国系揉みほぐしにも頼っています。痛みが激しいときは、市谷にある「東京中医学研究所」というところに通っています。
「自己組織化」「コントロール」「長続きする片手間運動」
結局、長時間座っていることに耐えられるようにするには、対症療法ではなく、背筋や体幹を鍛え、姿勢を良くするのが大事と考えるに至りました。まだまだ全然できていませんが、姿勢を良くする体操をしたり体幹を鍛えることで、50代になって腰痛はコントロールできるようになりました。完治を目指すのではなく、この「コントロールする」感覚が重要だと思います。コントロールで重要なのは、①自分の限界点を知る、②長続きする無理のない対策、の2つだと思います。限界点を知るというのは、「何をどこまですると、どこに痛みが出るか」を理解しておくことです。まあ、年を取るとだんだん理解できるものですが。
長続きするというのは「片手間でできる」という意味です。いまでも実践しているのは「片足歯磨き」です。歯磨きをしている間、片足で立つのです。最初は30秒で左右を交代、慣れてきたら1分ごとに交代するようにしました。これ意外に難しいですよ。また、ドリップ式自販機の前でコーヒーが出てくるのを待つ間に15回ずつのスクワットも良かったですね。今のオフィスにはそれがないので、残念です(笑)。
腰痛と向き合ううえで、外科手術という選択肢はありませんでした。西洋医学では手術に頼りがちです。しかし、腰に痛みが出ているのは、神経が圧迫されていることが原因でしょう。外科手術をするにしてもどの神経がどう圧迫されているか、完全には理解できない。もちろん、椎間板ヘルニアや物理的に潰れてしまった場合には、絶対に病院へ行ったほうがいいのですが、その治療の過程でも、外科的なことだけには頼らない。自己治癒力・免疫力を高める東洋医学的なものも取り入れてみる。東洋医学は外科的な手段がないときに発達したものですから、効果が期待できます。
体にメスは入れない方法を中心に取り入れる
姿勢を良くし、腰を守るために、矯正器具も使っています。矯正器具といっても、椅子やソファの上において使う座椅子のようなものです。ソファで仕事をすることが多いのですが、長時間座っていても腰が痛くなりません。
体を柔らかくしておくことも重要です。力士にベターっと開脚ができる人が多いと言われていますが、あれは体を柔らかくすることで怪我防止になっているのです。その意味で、ストレッチジムにも通ってきたのも良かったと思っています。月に2〜3回で、10年ほど続けています。初めはこの程度で効果があるのかと思っていましたが、高齢者のストレッチは「定点観測」の意味で重要なのです。人間は変わらない生活をしていると思っていても、少しずつ退化しています。定点観測してみると、「以前はここまで足が上がっていた」という変化がわかります。だからストレッチは、「定点観測ができる頻度でやったほうがいい」ということで続けています。
腰痛だからといって、体を動かさないのは問題です。体は骨だけで支えているわけではなく、筋肉も使っています。痛いからといって放っておくと、周りの筋肉まで弱くなります。弱くなるとまた痛くなる。その悪循環をどこかで断ち切らなければいけません。
腰痛・肩こりを敵視せず一生痛みと仲良く過ごす
あとは痛みと共存して、できるだけ普通の生活をする。ゴルフもする、テニスもする、運動をする。そうしているうちに自分のリミッターがわかります。痛みと共存するには、自分のリミッターがどこにあるかを知ることが大切です。自分はどんなときに腰痛が出るか理解するのです。僕の場合は、5日連続でゴルフをすると腰痛が出ることがわかっています。4日までは大丈夫です。であれば、5日目に休息を入れればいいのです。どこでリミッターがかかるかを知って、それを回避しながら軽度の痛みであれば共存していく。
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