各カンパニーが選抜してきたCEOの候補者は約500人。その中には30代の社員や外国人も含まれる。評価の指標となるのは「必要な人材要件」に加えて「コンピテンシー(行動特性)」「パフォーマンス」の3つだ。コンピテンシーは日立グループ全体で共通化されたもので「事業と価値の創造」「実行」「リーダーシップ」の3つからなる。たとえばリーダーシップには「ビジョンを示し、共感させる」「メンバーを奮い立たせる」という項目があり、それを3段階で評価する。コンピテンシー評価を縦軸に、パフォーマンス評価を横軸にしたマトリックス評価と人材要件の評価を加えた総合評価を見て、候補者の育成計画を検討する。

「人財委員会では『海外経験がないから来年海外に出すか』とか、プロフィットの責任者の経験を積ませるために4月の人事で事業部のこういうポジションにつけるかという異動や配置について検討します」(山口氏)

登録された500人は能力の進捗状況を毎年評価される。評価しだいでは入れ替わることもあり、ノミネートされたからといって安心はできない。

そして経営人材の底上げを図るために取り組んでいるのが世界の全社員を対象にした人材発掘と活用の基盤づくりだ。最初に取り組んだのが海外のブルーカラーを除く約25万人の人材データベースの構築であり、氏名、役職、職種区分などのデータの入力は今年の3月にすべて完成した。

個々人がそれぞれの職務でどんな能力を保有し、どういう成果をあげているかを把握する必要がある。しかし、国・グループ企業によって評価基準が異なるうえに、報酬体系もバラバラである。つまり人事制度が世界共通でなければ世界中にいる人材の活用ができないことになる。

その取り組みの第1弾が共通の尺度である「職務」による格付けの実施だ。

「海外の社員も日本人と同じように活用していく場合、能力を測る共通の尺度がなければ無理です。その1つとして職務を共通のものさしにする。同じ職務グレード(等級)の人であれば比較が可能になり、育成や評価もできるようになります」(山口氏)

現在、実施しているのは海外を含めたグループ企業の全管理職5万人の職務による格付けだ。世界中の4500のポストの職務評価を実施し、それをベースに管理職を7段階(等級)に分類することを、今年の3月から導入している。同じ等級であれば、山口氏の言うように、等級ごとの教育の実施や等級に見合う国境を越えた異動も可能になる。ところがそれに立ちはだかるのが日本独自の年功的な給与制度だ。

欧米の給与制度は職務主義であり、年齢や能力に関係なく本人が従事している職務や役割に着目し、同一の役割であれば給与も同じ。ポスト(椅子)で給与が決定し、ポストが変われば給与も変わるという職務・役割給が主流である。それに対して日本の多くの企業は年齢や能力など「人」を基準に報酬を決定する要素が色濃く残っている。