「記述式」が苦手な子どもたち
小学6年生と中学3年生を対象に、今年4月に実施した「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の結果を文部科学省が発表した。注目すべきは、中3国語だ。
平均正答率は現行方式が導入された2019年度以降で最低で、特に記述式の正答率が他の形式より低く、25%台にとどまった。読売新聞は「文章全体を理解し、理由や根拠を踏まえて記述することに課題があるとみられる」と分析している。
私も、複数の塾や予備校の関係者から「最近、子どもたちの読み書きの力が目に見えて落ちている」と聞き、学校現場にも意見を求めた。
教員たちからは多様な意見があったが、私は教材のデジタル化が進んだことで、学力の土台となるべき「覚える学習」が疎かになっていることが原因ではないか、と考えている。
2009年に紙の教科書を廃止したスウェーデンでは小学生の読解力が低下していることが国際調査(PIRLS)などで判明して、紙の教科書に回帰している。その理由はスクリーンであると、脳が文字情報を「消費すべきもの」と判断して、流し読みになって記憶に残りにくくなるからだと言われている。
学力格差は「小学校入学前」に始まっている
そもそも、子どもの学力はいつ差が生じるのか。
これは教育政策を考える際に、前提とすべき根本的な問いである。だが、先天性が問われる可能性があることから、表だって議論されることは多くない。
このような問いを考えるとき、先天性のほか、家庭環境、学校の質、教師の能力、地域差など、さまざまな要因が語られてきたが、近年の研究が示している驚くべき共通点がある。
それは、「子どもの学力は小学校入学時点でおおよそ決まっている」という事実だ。
2011年に発表されたルード・ヴァーホーヴェンらの研究は、語彙力と読解力の関連性を明らかにした。
※Verhoeven, R., & Vermeer, A. (2011). Vocabulary breadth and depth as predictors of reading comprehension in Dutch primary school children. Applied Psycholinguistics, 32(3), 453-466.
語彙の量だけでなく、語彙に対する理解の深さが読解力に与える影響は大きく、小学校1年生の時点でできた語彙力の差が、小学6年生になっても縮まらず、むしろ固定化するという。
読解力はすべての学力の基礎であり、読解力の土台になるのが語彙力である。語彙力が小学校入学前の就学前教育に形作られるという事実を考えると、就学前教育の重要性は極めて高いと言わざるを得ない。

