「安定が一番」の不文律を持っていたA社はショック療法で現況から抜け出そうとしている。社員はトップの「安定から降りよう」というメッセージが気持ち悪くて仕方なかった。ゆえに変革に向けた議論も、知らぬ間に保身のための議論にすり替わってしまうのだ。
そこで「新ビジネス提案制度」と称して新しいビジネスモデルの構想を社内公募した。すると従来、人事評価が上位だった社員がみな予選で落ちてしまった。本選に上がったのは人事評価で真ん中あたりの社員。特に高く評価されてはこなかった人たちが1位、2位、3位を独占してしまった。組織に衝撃が走る結果だったが、こうなったのは社長自らがビジネスモデルの評価をしたからだ。最初、事務局は新規性とか実現性といった決まり切った尺度で評価しようとしたが、社長は、まったく違った角度から「その人が本当にやりたいか」「世の中にインパクトを与えられるか」「利益率を上げられるか」の3つの評価軸を出した。
これは非常に強いメッセージとなった。今、会社が求めているのは頭が良くて安定を求め、予定調和的な解を出す人ではなく、会社を本気で変えようとしている人だというメッセージである。それにより「安定こそすべて」という不文律が薄まってきたのである。
誰が率先して動くかどうかも重要なポイントとなる。中心的役割を果たすべきは、部長クラスの管理職。この部を変えたいと本気で思う部長が不文律解消に取り組むのが一番の近道だ。反対に部長が「うちの会社は女性活用なんてできないんだよ」などと不文律を肯定したり、改革に白けた態度を取っていては何も変わらない。この手の部長には、同じ部門の中で順当に出世し、その部門の不文律のDNAを強く引き継いでいる人が多い。
逆に変化に積極的な部長の場合、本人の優秀さが妨げになることもある。この時代、部長になれる人は相当なエリートだ。複数の部門で実績を積み、経営的な視点を有していたりする。こういう人はともすれば背景を考えずにいきなり変革の理想を掲げてしまう。周りはなぜ変えなければいけないのか腑に落ちず、現場の理解が得られない状況が生まれてしまう嫌いがある。