では、私たちが実際にコンサルティングを手掛ける企業で、不文律が障害となっていたケースを紹介しよう。

まずは日用品メーカーA社。日用品メーカーはドル箱ブランドを持っているところが多いが、A社もメガブランドがあり社員はそこに安住していた。ワークショップをすると「安定」という不文律に浸かった社員の姿がはっきり見えた。

ところが昨今、流通サイドがどんどん強くなり、価格のイニシアチブを取られてしまった。既存ブランドがセールの目玉にされ、利益率が落ちている。その一方で営業マンは相変わらず小売店の棚取りだけに奔走していた。商品開発担当は「大きさを変えたらどうか」「パッケージを変更したほうがいいのではないか」と様々な改善策を施すが、どれも大きなインパクトが出せないままだった。社員の「会社に安定を求める」不文律が大胆な発想や解決策の邪魔をしていたのだ。

次は数社の子会社を統合しようとしている商社のB社だ。従来、子会社は子会社で独立し、自分たちの責任で経営してきたが、似通った事業分野で統合を図り、新しい事業戦略を立てる計画が持ち上がった。各社のキーマンを集め、環境分析をしてそれぞれの事業の強みを確認。顧客ニーズをくみ取って事業構想を展開しようとしていたところで、不文律が立ちはだかった。

「親会社のほうが偉い」という不文律である。子会社は親会社に対して強い被害者意識を持っていた。給与は親会社よりも低いし、親会社から出向してくる幹部は子会社のほうを向いていない。「うちの会社は」というときの「うち」は親会社のことなので周りはみんな白けていた。そうしたことが積もり積もって、事業構想を描く会議を開いても前向きな議論ではなく、不平不満をぶちまける場となってしまった。

最後の例はIT企業のC社である。C社はこれまで汎用パッケージソフトを販売してきた。だがその分野はどうしても外資系が強く、トップはクライアントの経営課題を解決するソリューション型ビジネスに転換する必要性を感じていた。販売からサービスへの転換となるため人材強化が必要になるが、社員に女性が多いので女性の育成と活用が必須という結論に達した。

社長自らが旗を振って女性活用を進めようとしたのだが、組織はまったく動かないし、女性たちも関心を示さなかった。ここでは2つの不文律が不信感として壁になっていた。人材育成と女性活用への不信である。トップは今まで目先の業績ばかりを口にしてきた。そのため急に人材育成と言われても信じられなかったのだ。

しかも女性を男性と同じように働かせてこなかったので、社長の言葉がまったく響かない。昇進している女性もわずかにいるにはいた。しかしそういう女性は仕事一辺倒で家庭を犠牲にしているため、大半の女性社員にとっては、どう見ても昇進=幸せだと思えなかった。「人材育成より業績が大事である」という不文律と「活躍する女性は不幸になる」という不文律が二重になって立ちはだかっていたのである。