中国は次世代の人工知能(AI)──人間のような思考や判断が可能になるとされる「汎用人工知能(AGI)」──の開発で、アメリカを凌ぐ勢いにある。アメリカで新たに発表された報告書によると、それは中国共産党の価値観を組み込んだAIであり、技術覇権争いにおける中国の優位性を押し上げる可能性がある。
その実験場となっているのが中国中部・湖北省の武漢市だ。新型コロナウイルスの発生源ではないかと悪名を轟かせたこの都市は、先端技術や科学研究の一大拠点でもあり、AI開発の中心地のひとつになっている。
米ジョージタウン大学の安全保障・先端技術センター(CSET)が5月16日に発表し、本誌が発表前に独占提供を受けた報告書によれば、北京の2つの主要なAI研究機関は国家の強力な後押しの下、武漢に支部を設立。欧米の開発者や政策立案者の注目を集めている生成AI の大規模言語モデル(LLM)を代替する高度な技術を共同で開発しているという。
報告書の筆頭著者であるCSET主任分析官のウィリアム・C・ハナスは本誌に対し、中国のAI戦略は多面的かつ革新的であり、アメリカはすでに遅れを取っている可能性もあると語った。
「いくらデータセンターに巨額の資金を注ぎ込んでも、追いつけるとは限らない。競争的なアプローチが必要だ」
これまでアメリカが優位とされてきた「半導体」と「アルゴリズム」も、中国の独自技術に脅かされ始めている。しかも、両国は同じ土俵で競っているわけではない。アメリカ企業は大規模な統計モデルに依存しているが、中国は複数のAGI開発ルートに同時投資することでリスクを分散していると、元CIAの中国専門アナリストでもあるハナスは指摘する。
AI分野での米中競争は激しさを増しており、中国は2024年1月、生成AIモデル「DeepSeek(ディープシーク)を発表して世界を驚かせた。オープンAIの「ChatGPT」など圧倒的な優位にあるとされていたアメリカ勢を一気に逆転したからだ。
さらに中国政府と研究者は、AIを現実世界に「実装」するという次の段階に踏み出している。
ハナスらは「中国のAGI開発における武漢の戦略的役割」と題した報告で、「中国の主要なAI研究機関は、政府の資金提供を受けて、中国共産党の価値観を組み込んだAIアルゴリズムを現実環境に適用することで、学習と進化を加速させている」と記している。
中国型AGI開発の鍵となっているのが、神経科学とAI技術の融合だ。報告書では、武漢の取り組みは全国展開への足がかりとされており、アメリカが対抗すべき「技術社会」のあり方を改めて問うものだと述べている。
AI開発の主導権を握ることは、世界の勢力図を塗り替えるほどの影響力を持つ。「AIの安全性や軍事利用のリスクに注目するだけでなく、AIの可能性を迅速かつ果断に追求する国に競り負けるという現実も直視すべきだ」と、ハナスらは警告する。
武漢で進められているこの共同プロジェクトは、中国科学院自動化研究所(CASIA)、北京大学・PKU武漢人工知能研究院、そして通信大手ファーウェイによって主導されている。

