米中貿易戦争、チキンレースの末路は
米中の関税率引き上げ競争で、貿易戦争は一段と熱を帯びてきた。米国が対中国の相互関税を発表すると、中国もすぐに報復の発表を行った。11日時点で、米国の対中追加関税は145%、中国は米国に対して125%の報復関税を実施した。これだけの高関税は、米中両国だけでなく、世界経済にとって重大なマイナスの影響を与えるはずだ。
ただ、激化する貿易戦争とは裏腹に、米中両国とも大きな問題を抱えている。関税政策自体は、両国にとって問題の解決につながるとは考えにくいが、トランプ氏・習近平氏にとって意地でも負けられない我慢くらべの様相を呈している。
米国内でトランプ氏は、強引な関税政策で景気後退とインフレ再燃の懸念の問題を抱えている。また、朝令暮改の政策運営は国内でも批判の声が出始めており、国際的にも米国の信用が低下しつつある。金融市場では、米国株安・ドル安・米国債安という米国売りの兆候も出始めた。
一方、中国では、習政権下で不動産バブルが崩壊し景気の低迷が続いている。家計の節約志向は高止まりし、デフレ圧力も高まっている。そうした状況下で、高関税の影響で対米輸出が減少すると中小企業の倒産は増加するだろう。失業率は高まり、習政権に対する不満が蓄積することが考えられる。
2人のプライドが溶かす世界経済
トランプ・習近平の両氏は、意地の張り合いの中で我慢くらべをしているように見える。両氏の本音は、今すぐにでも解決に向けた協議をはじめたいはずだ。ただ、トランプ氏も習氏も、支持者への手前、意地を張らざるを得ない。
今後、どちらが勝つかを判断することは難しいが、両者にとって選挙の有無は重要なポイントかもしれない。習近平氏には実質的に選挙はない。一方、トランプ氏は来年秋に中間選挙を控える。その意味では、トランプ氏のほうが不利との見方はある。ただ、今後の展開はまったくと言ってよいほど読めない。これからの状況次第では、両国だけではなく、世界経済に何が起きるか予測不能の状態だ。
政権の発足以降、トランプ氏は朝令暮改の政策運営が目立つ。当初、同氏はメキシコ、カナダに25%の関税を課すと明言した。ところが、その後、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)適合品に限って4月2日まで猶予するとしていた措置を継続するとした。
相互関税に関しても同じようなことが起きている。4月2日、トランプ氏は、“相互関税(貿易相手国を対象とする10%の基礎部分と個々の国に設定した上乗せ部分からなる)”を発表した。5日、基礎部分は発動した。