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図5:広告なしで一気にクチコミが増えた珍しい事例

間接コミュニケーションによるヒットと聞いて、「食べるラー油」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。桃屋が2009年8月に発売した「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は、クチコミで人気が沸騰、一時は品薄状態でCMを自粛したほどでした。図5は、食べるラー油についてのブログの日ごとの書き込み件数です。「ヒット現象の数理モデル」には直接コミュニケーションと間接コミュニケーションがありますが、食べるラー油のように広告費と無関係にブログ書き込み件数が増大していく現象は、間接コミュニケーションによってのみ表現されます。

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図6:「広告を打てば消費者が反応する」は間違い

実線部分は、間接コミュニケーションを強く設定して計算した「ヒット現象の数理モデル」のシミュレーションです。それがブログの実測値と合致することから、食べるラー油の大ヒットには間接コミュニケーションが強く寄与していることがわかるのです。

広告を出せば消費者がそれに反応するという単純なマーケティングの考え方が間違いということは、図6が示しています。これは映画『アバター』の例で、GRP(みなし視聴率。広告業界で使われるコマーシャルの影響を表す単位)の値が変化しても、購入意欲、ブログ書き込み件数に影響がないことがわかります。

鳥取大学工学研究科 機械宇宙工学専攻 教授 石井 晃
1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。理学博士。2008年より科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究員。デジタルハリウッド大学ヒットコンテンツ研究室客員研究員。専門は計算物理学手法を用いた表面科学。
(構成=小川 剛 撮影=市来朋久)
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