健康診断のオプションで追加するといい項目は何か。産業医の池井佑丞さんは「40歳以上の人で、定期健康診断に『眼底検査』が含まれていない人は、ぜひ追加してほしい。この検査では、目の健康状態に加えて、全身の病気の兆候も捉えることができる」という――。
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視力検査とは違う「眼底検査」

朝、スマートフォンを手に取ると、片目の視界がぼやけている。最近、パソコンの画面の文字がかすんで見えにくい。運転中、信号が見えづらくなった……そんな違和感を覚えたことはないでしょうか。

「視力検査は毎年受けているし、普段の生活で見えているから大丈夫」と思っている方も多いかもしれません。しかし、健康診断で実施される視力検査だけでは、目の奥にひそむ病気を見逃してしまうことがあります。

そこで知ってほしいのが、「眼底検査」です。実はこの検査、目の健康状態だけでなく、全身の病気の兆候を捉える“窓”でもあるのです。

実際、眼底検査で異常が見つかるケースは決して少なくありません。

近畿健康管理センターの調査によれば、健康診断で眼底検査を受けた人のうち、およそ10人に1人(9.7%)が「要精密検査」と判定されています。2021年に実施された調査では、企業や自治体で働く1360名を対象に、視力・眼圧・眼底・OCT(光干渉断層計)などを組み合わせた精密眼科検診を行った結果、12.4%に緑内障、5.7%に白内障、1.2%に加齢黄斑変性症、さらに糖尿病性網膜症などの重大な眼疾患が見つかったと報告されています(山田昌和ほか,2021)。

これは、10人に1人以上が、視力低下や失明につながる病気をすでに抱えている可能性があることを示しており、普段の生活で「見えているから問題ない」と考えていても、目の奥では病気が進行している可能性があることを示唆しています。

緑内障の初期はほとんど自覚症状がない

日本では、緑内障の推定患者数は465万人にのぼり、40歳以上の20人に1人、60歳以上では10人に1人が発症するとされています(日本緑内障学会,2021鈴木康之ほか,2008)。この数字は、緑内障が決して高齢者だけの病気ではなく、働き盛りの世代にも無関係ではないことを示しています。

緑内障は、視神経が少しずつダメージを受けることで視野が狭くなっていく病気ですが、初期にはほとんど自覚症状がありません。そのため、気づかないうちに進行し、気づいたときには視野障害がかなり進んでいることも少なくありません。実際、日本における視覚障害の原因疾患の第1位は緑内障であり、2015年には28%、2019年には41%を占めています(的場亮ほか,2023)。