OJTで求められる2つの要素とは
こうしたタネを知らないと、たずねてきた依頼人の服装やしぐさだけから、依頼人の職業や、解決を依頼したい問題を言い当てるシャーロック・ホームズのようだ。しかし、タネを明かしてもらえばだれにでもできそうだ。天才ホームズのレベルにはなかなか達しえないとしても、このような推論能力をもとに臨機応変な対応ができるようになる。そのためには、かなりのトレーニングや指導が必要である。
顧客の気持ちをそのしぐさから読み取るための知恵のなかには、マニュアルでも伝えることができそうなものがありそうだ。上であげた例は、マニュアルにできそうだ。しかし、京都の花街では、マニュアルで伝えるという方法はとられていない。先輩による現場での指導、置き屋での教育・訓練という方法がとられている。ディズニーランドやマクドナルドのマニュアルによる知識伝承の方法とは明らかに異なっている。マニュアルによる教育と現場での指導による訓練のどちらが優れているかを一概に言うことは難しい。それぞれには長短がある。また、それぞれの短所を補う方法も工夫されている。それぞれの仕事にはどちらの育成方法が向いているかを考えて伝承の方法が選ばれるべきである。マニュアルという方法では、日本型のきめ細かく臨機応変なサービスの質を維持することが難しいのだろう。また、マニュアルでは、マニュアルを書いた人を超える知恵を得るのは難しい。
京都の花街では、マニュアルではなく、職場での指導・教育という方法が採用されている。まさにオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)である。この形での知恵の伝承には、次の2つのものがとりわけ重要だと西尾さんは言う。