娘たちの引退勧告には「私に『死ね』っていうことか!」
ちなみに、コシノジュンコは『お母ちゃんからもろた日本一の言葉』で当時のことを次のように記している。
「お母ちゃんは70歳になる頃、相次いで病気や怪我に見舞われました。体調を心配した私と姉は『そろそろゆっくりしたら』みたいなことを言ってみたんですが、そのときお母ちゃんはこう激怒しました。『私に「死ね」っていうことか!』。娘たちから年寄り扱いされたのがよっぽど悔しかったんでしょう」
この後に自身のブランド立ち上げのきっかけになったというから、すさまじいエネルギーである。
ところで、ドラマでは描かれていないが、実は晩年の綾子の人生観を大きく変えたのは「信仰」だった。
朝ドラでは描かれなかった母娘で入信した「信仰」
きっかけは、三女・ミチコがロンドンに旅立つ日にキリスト教の洗礼を受けたこと。入信したのは次女・ジュンコが最初で、次にミチコ、最後に、離婚話が難航していた長女・ヒロコが妹たちに勧められ、入信したところ、スムーズに離婚できたという経緯があった。
娘たちは当初、綾子に内緒にしていたが、姉妹で揃って出かける際、「わたしに内緒で、みんなどっかええとこに行くのかな」と勘繰り、一緒にタクシーに乗り込んだところ、着いたのは教会だった。
そこで、ミチコの無事を教会のみんなが祈ってくれることに感動、その流れで洗礼を受けたという。信仰がいかに支えになっていたかについて、綾子は自伝でこう記している。
「しばしば教会に行ってお祈りし、時には牧師さまにご相談にのっていただくこともあります。そうすることで精神的に余裕が生まれ、クリエイティブなアイデアも湧いてきますし、社員やお得意先との人間関係もうまくいく。それが結果的に、仕事の成功にも結びついてきます」
また、ドラマでは糸子が晩年、さまざまな人と交流していたさまが描かれたが、これも史実通り。『糸とはさみと大阪と』によると、「好奇心かたまりの会」、略して「ザ・Uの会」(遊、友、YOU、ユニオンのUなどの意)という集まりを作り、61年9月には400人を集めての発足式を開催。会員には大企業の社長もいれば、赤貧洗うがごとき人もいて、「精神はお金持ち」が入会条件だったという。