一方、理性の塊といえるカエサルが、遠征先であるガリア地方(現フランス)の地勢や人間・文化を冷徹な筆致で書き記したのが『ガリア戦記』だ。大衆がときに情緒的であることを承知したうえで、最適なパフォーマンスを選択し統治していく。その姿勢は企業経営にも参考になる。『比較憲法』から『法学入門』までの4冊は、大学時代に熟読し感銘を受けた。社会人になってから米国へ留学したが、MBAプログラムのなかで最も科学的だと感じたのが『コーポレート ファイナンス』だ。『ビジョナリーカンパニー』『君主論』もこの時代に英語で読んだ。理論ではなく現実に根差した『君主論』は、現代の経営学よりもよほど実践的だ。

『比較憲法』樋口陽一/青林書院
各国憲法を比較することで統治制度の差や歴史的変遷を学ぶのが比較憲法学。「制度という視点で政治史を捉えている。樋口先生の授業は実に面白かった」。

『経済と社会』マックス・ウェーバー/創文社
社会学者・経済学者ウェーバーの代表的著作(写真はそのうちの1巻)。「社会科学はドグマ(教義)から中立であるべきという、価値中立論に共感した」。

『方法序説』デカルト/岩波文庫
存在の本質を理解する力「理性」を正しく追求し、学問の真理を探究する方法を述べたもの。中世の神学的な精神が支配的な中で近代合理主義の礎を築いた。

『法学入門』三ヶ月章/弘文堂
法学部新入生の教科書。「コンサルタントになってから再読した。悩みの解決に奉仕するのがプロフェッショナルだという指摘に、行くべき道を教えられた」。

『コーポレートファイナンス』リチャード・ブリーリーほか/日経BP社
欧米ビジネススクールの教科書。「経営学のうち科学といえるのはファイナンスだけ。それで、金融界の人間ではないのにファイナンスばかり勉強した」。

『ビジョナリーカンパニー』ジェームズ・C・コリンズほか/日経BP出版センター
時代を超え際立った存在であり続ける企業の成功の理由。「コリンズ教授が執筆を進めている時期に授業を受けていた。明確な歴史観を背骨に持つ名著」。

『君主論』マキアヴェッリ/岩波文庫
著者はルネサンス期イタリアの下級官吏。君主になる人は何に気をつけるべきかを具体的に列記した。「現実を説明する枠組みとしていまも役立つ」。