企業経営に携わるようになってから改めて読んだのが『鬼平犯科帳』以下の8冊だ。『後世への最大遺物』から『オセロー』までは、産業再生機構時代に企業再生の修羅場のなかで手に取った。カネボウのように伝統があり人材豊富な企業が、なぜ破綻しかけるのか。また、関係する外部機関のエリートたちが非合理な攻撃をしかけてくるのはなぜなのか。そのことを知るために『「空気」の研究』は大いに役立った。
『鬼平犯科帳』池波正太郎/文春文庫
火付盗賊改方・長谷川平蔵の活躍を描く。下級役人の世界は現代の会社そのもの。「善悪一如の世界観のもと、人間のずるさも可愛らしさも教えてくれた」。
『HPウェイ』デービッド・パッカード/海と月社
日本型経営で成功したヒューレット・パッカード社の歴史。「米国型を賞賛する時代に再読し、ドグマより事実を見るべきだという思いを深くした」。
『ローマ人の物語』塩野七生/新潮文庫
ローマ帝国の興亡を描いた大作。「価値観を交えないクールな書き方が光る。唯一カエサルだけは好意的に描いているが、そのことを含めて好ましい」。
『後世への最大遺物』内村鑑三/岩波文庫
ふつうの人間が後世に遺せるものは、少数者とともに立つ意地であり行動だと説く。「若いころはぴんとこなかったが、再生機構のときの指針になった」。
『経済システムの比較制度分析』青木昌彦、奥野正寛/東京大学出版会
経済を多様な制度の集まりと捉える「比較制度分析」の解説書。「自由主義経済論者の私が政府部門で働く正当性は何か。理論武装のために役立った」。
『「空気」の研究』山本七平/文春文庫
日本社会は理性とは別に“空気”で動くことを論じた。「産業再生機構時代に読み、賢明なインテリたちがなぜ情念で行動するかを理解し納得した」。
『オセロー』シェイクスピア/新潮文庫
シェイクスピア4大悲劇の1つ。「企業再生の修羅場では99%の人が嫉妬や煩悩で行動し、結局は身を滅ぼしたが、そのメカニズムが描かれている」。
『アンディ・グローブ』リチャード・S・テドロー/ダイヤモンド社
インテル創業者の評伝。ハンガリーから亡命し曲折の果てにインテルを創業、大胆な事業転換にも成功した。プロ経営者としての生き方を学べる本。
冨山和彦
ボストンコンサルティンググループなどを経て、2007年にIGPI設立。近著に『経営分析のリアル・ノウハウ』。