人間の社会は理性だけでは動かない

教科書的な答えが存在しない時代である。本に書かれていることも、先人の経験談も、そのままでは通用しないということだ。役員は、これまで以上に、緊張感の漲るなかで企業の舵取りをしていかなくてはならない。

そのなかでは、いかなる本も批判的に読むことが大事である。情報や考えそのものを鵜呑みにするのではなく、著者が提示する問題意識や、ものを考えるときの方法論を学ぶのだ。その観点から20冊を選んでみた。

私が中高生のとき親しんだのが『数学物語』から『国盗り物語』までの5冊である。『三四郎』を挙げたのは、西洋的な自立した個への志向と、日本的・ムラ社会的なしがらみとの葛藤が典型的に表れているからだ。私自身もそうだが、ビジネスエリートは概して西洋的な理性や知性に対して共感しやすい。少なくとも経営レベルの意思決定は、かなりの部分が理性によってなされていると思いがちだ。ところが実態は逆で、理性とは遠い政治や情緒によって動くもの。『三四郎』から村上春樹に至る現代小説にはそのあたりの葛藤が描かれており、社会の現実を直視するためのトレーニングになる。