言論封殺のような空気

しかもそういう人は身近にもいれば、テレビの出演者にもたくさんいて、避けようと思っていても目にしてしまうことが、ハラスメントという言葉につながった理由の1つだろう。それらの人々を見て共感性羞恥(他人の恥ずかしい姿を見て自分事のように恥ずかしさを感じてしまう)を感じるくらいなのに、やんわり指摘することも許されない。

そもそもスポーツが好きかどうかで分かれる上に「野球好き」となると、その数はさらに絞られる。球技のチームスポーツだけをピックアップしても、サッカー、バスケットボール、バレーボールなどが好きな人も多いのに、大谷とドジャースフィーバーの今、その話題を口にすることすらためらってしまう。

ある意味、言論封殺のような空気の背景には、「野球というスポーツだけでなく、大谷の人間性や振る舞いなども楽しむ」という特殊性がある。もし「こっちは単に野球を見てるだけじゃなくて、大谷という日本一・世界一の人間を見ているんだよ」と語られたら、自分の好きな他のスポーツを語る気力も失せてしまうのではないか。

そして「大谷ハラスメント」というフレーズを語る上で触れておかなければいけないのは、メディアのビジネスライクなスタンス。

テレビにリモコンを向け、チャンネルを変えようとしている手元
写真=iStock.com/Yuzuru Gima
※写真はイメージです

ビジネスなのはわかるけど

今回、試合中継を担当する日本テレビの特設ホームページには、「これは、夢か?」というコピーが掲げられている。ただ、一昨年はWBCの東京ラウンドがあり、昨年は韓国でドジャースの開幕シリーズが開催されただけに、「夢というよりビジネスとしての現実」と見るのが自然だろう。

それくらいあおってにわかファンを集めようとしていることは間違いないが、その日本テレビと言えば「いまだに巨人戦のイメージがある」という人も多いのではないか。しかし、読売新聞グループの日本テレビですらプロ野球中継の数は極めて少ない。それどころか週末のみになったスポーツニュースでも、「日本プロ野球の扱いはわずかでメジャーより少ない」というケースが目立つようになった。

事実、日本テレビや系列局の局員からは「年に数回でも野球中継はお荷物扱いになっている」という声を長年聞いていた。他局はさらに中継が少ないなど、「在京キー局はNPBをネットに追いやったのに、メジャーだけは嬉々として放送する」という状態が続いていて、これが日本プロ野球ファンからの不信感につながっている。

テレビマンたちに言わせれば、「大谷は視聴率が獲れて、日本のプロ野球は視聴率が獲れない」というだけなのだろう。

それは仕方がないところもあるが、朝から夜まで大谷特集を放送するのは別の話。特に報道・情報番組には事件・事故、政治・経済などの扱うべきニュースが他にもあり、大谷の活躍で盛り上がっているときだからこそ、バランスよく構成できれば評判を集めそうなものだが、どこもそれをせず長時間の大谷特集を繰り返している。