実は、前年秋にも京子さんと武史くんは大きな衝突を起こしていた。武史くんの成績が急降下。見かねた正樹さんは「勉強は自分が見るから、睡眠と体調管理に専念してほしい」と京子さんに申し出たという。その日から、できる限り早く帰宅し、武史くんのサポートを開始した。カカア天下からの父親介入はえてして失敗を招くパターンだが、正樹さんのやり方はパーフェクトだったと小川は言う。
「正樹さんは息子さんのことより、むしろ京子さんの心配をなさった。父親が途中から受験に介入してくる場合、上から目線で『俺が助けてやろうか?』となりがちで、それが『今まで無関心だったくせに!』と母親の反感を買いやすい、子供を助けようとするとダメで、正樹さんのように、母親のほうにこそ助け船を出すべきなんですよ」
意図してか、たまたまか。天然パパは要所要所でファインプレーを見せたというわけだ。結局、武史くんは開成中学に実力通りの合格を果たした。
「男性というのは、とかく外面を気にするものです。しかし、正樹さんは自分自身や家族の恥や外聞さえ投げ捨て、私に泣きついてこられた。これはなかなかできないことです。そういえば、正樹さんがおっしゃっていました。子供の勉強を見ることより、飲みの誘いを断るのがつらかったって(笑)」