煮え湯を飲まされる

同年11月、主治医から半日だけ出社する許可が下り、12月から1日6時間勤務の許可が出た。

胡麻さんは、「私はまた人の役に立てるんだ」という喜びでいっぱいだったが、早朝覚醒はまだあり、服薬は続けていた。

12月初旬のある朝、早朝に目が覚めてしまった胡麻さんは、リビングに置いてあった夫の携帯電話にメールの着信があり、「こんな時間にメールなんて、緊急な用事かも?」と思い手に取る。すると表示された文面が、明らかに女性からのもの。気になった胡麻さんは、パスワードにあたりをつけて入力してみると、2回目で開いた。

スマホに手を伸ばす
写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです

「目にしたのは半裸の写メと『さっきの跡つけたとこ』という文面。血の気が引き、手が震え、倒れそうになった記憶が今も残っています。携帯の写真フォルダーを遡るともっと過激な写真もあり、4月ごろから不倫していたようです」

月曜休みの夫のため、日曜の夜、子どもたちが寝たことを確認してから不倫を問いただし、「離婚したい」と伝えると、夫は「家庭を壊す気はない。遊びだったから別れる!」と土下座。相手の女性とはゲームセンターで知り合い、本名も住所も知らないらしい。

双方の両親に伝えると、実母も義母も「子どもたちのために我慢して!」と言い、離婚を踏みとどまらされた。渋々再構築することにした胡麻さんだったが、うつ病が重症化。再び休職し、今度は部屋から一歩も出られない状態に。

「この頃の記憶はほとんどないです。12月後半には何度も自殺未遂し、強制入院も何回かあったはず。中1と小5の子どもたちには母が説明したようですが、『お母さんがおかしくなった』と思ってたのではないでしょうか。声もかけてこなかったですね。全く何もできず、家のことは夫や母たちがしてくれていました」

そして1年経った頃、会社から「これ以上の休職は規定上無理だから、出勤するか退職するか選んでください」と連絡が来る。胡麻さんは主治医に短時間勤務の許可を願い出て、1日6時間まで働き始めるが、帰宅すると力尽きていた。

不倫発覚から3年目のある休日、子どもたちは義実家に泊まりに行っていない中、夫が激昂して言った。

「俺だって必死だし、疲れている! 少しは家の事しろ! 休みに好きなこともできない。我慢してやってる。子どもらも家にいたくないから実家へ逃げた。俺も逃げたい。やってられない!」

夫は怒鳴りながら家具を蹴ったり置物などを投げたりし始めた。当時飼っていた犬が、驚いて吠え、ケージの中から夫に威嚇していた。怖くなった胡麻さんが裸足で外へ逃げると、近所に住むママ友が胡麻さんの兄宅へ連絡してくれた。

「こうしたことはこの日が初めてではありません。口論になって怒鳴られたり、無言で家具を蹴ったりということが何度かありました。うつ病になってからの記憶は曖昧ですが、この時のことは鮮明に覚えています」

兄と実母が間に入って話をしたところ、夫にカードローン2社の、合計350万ほどの借金があることがわかる。趣味の車や、不倫で旅行やホテル代などに使ったという。うつ病になった胡麻さんの代わりに夫が家計を管理していたが、その間に子どもたちの学資保険も勝手に解約されていた。

一旦その場は収まったが、父親の借金のせいで高校の授業料を奨学金でまかなうことになった上、その年の夏の部活の遠征費用などが払えないといった状況を知った高1の次女は、大きなショックを受けた。

また、長女は高3で進学を希望していたが、父親から「全額、奨学金で行け」と言われ、今までにない怒りを露わにする。

「あいつ(父親)に出て行ってもらえば? 今までのこと全部知ってるし。あいつが原因だから、離婚したら母さんの病気も改善するし」

長女のこの言葉にハッとした胡麻さんは、すぐに兄に相談。兄が間に入り、夫に離婚や自宅売却の話をしたが、拒否されたため、離婚調停に。

不倫相手と夫は、最初に不倫が発覚した時から2年以上関係が続いていたことが判明し、担当した弁護士から夫の不倫相手の女性に「慰謝料を請求できる」と言われた。だが、夫がかばったのか相手に逃げられたのかは不明だが、この時はすでに別れていて相手の本名も住所もわからず、電話番号は解約されていて請求できなかった。

2015年11月。45歳になっていた胡麻さんは、うつ病で休みがちだった会社から自主退社を迫られ、退職。

退職金と自分の貯金で夫の借金を完済し、自宅を売却して残った金額が60万円。引っ越し費用・家財道具の償却代でその半分が消え、残りを胡麻さんがもらい、子どもたちがそれぞれ就職するまで1人月3万円の養育費を払うことで夫とは決着がついた。

わずかなお金を手に、高3と高1の娘たち、飼っていた犬1匹を連れて実家に身を寄せた胡麻さんは愕然とした。実家はゴミ屋敷と化し、家計も完全に破綻していたからだった。(以下、後編へ続く)

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