このRM2.0では、(1)生鮮品を調理するために店舗内に広いバックヤードをとり、(2)売れた分だけ調理して店頭に並べるようにした。いずれも、積極的に生鮮品の鮮度を維持するための配慮にほかならない。そのために、食品の保冷設備や運搬システムや陳列ケースなど、店舗業務のハードやソフトについてもいろいろと工夫を加えていったことも特筆できる。こうした事業定義とそれに基づいた創意工夫の発揮により、「安かろう、悪かろう」と言われたスーパーの生鮮食品売り場が一挙に、街の小売市場や商店街の生鮮品店の品質・価格に追いつくこととなった。余談だが、そうしたチェーンにおけるイノベーションが、街の小売店による大型店出店規制運動を促すことにもつながった。

いずれにしろ、RM2.0は、小売り経済の焦点を、大きく供給局面から市場局面へ移すことになった。加えて、RM2.0においてカギを握るのは、店長である。荒井さんから、次のような店長という役割の意義を示す話を聞いたことがある。

「店に並んだトマトが傷んでいる。商品部中心の経営なら、供給先を替えることくらいしか手はない。だが、店に並んだトマトが傷むのにはさまざまな理由がある。お客さんが強く押したのかもしれないし、置く場所が固いところでそこから傷みだしたのかもしれない。店に出すタイミングが遅れて傷んでいるのかもしれない。何が原因かわからないが、原因を突き止め解決することができるのは、唯一店長のみである」と。多彩な視点から、店を良くするための手を打つことができる。これが店長の役割だ。商品部中心の経営から、店長中心の経営へ、これがRM1.0からRM2.0の違いとして把握できる。では、それに続くRM3.0とは、どういうものか。

北九州市に本社をもつスーパーマーケットのハローデイは、「働く人たちが『働きたい』と思うスーパー日本一になる!」ことを目指している。そこでは、「**さんちの節約メニュー」がヒットした。それは、「もやしが6袋、豚のばら肉、焼き肉のたれ付き」のセット。価格はお手頃で、ボリュームだけは満点。**さんちでは、高校生や中学生の息子さんがおられて、食事の量も食事代も大変。そこで編み出されたのがこのセット。**さんは、これを店の商品として売り場担当者に企画提案し、それが受け入れられて店頭に並び、それが店にやってくる主婦の気持ちを掴んでヒットした、というわけだ。その土地に住む主婦が、店でパートとして働き、自分たちの日頃の夕食をそのまま提案しているのだから、そもそもお客さんに受け入れられる土壌は整っている(「加治敬通インタビュー録」流通科学大学附属流通科学研究所、2011年)。