複式簿記を行う際、現金、売り上げ、仕入れ、預金などの勘定記入のほかに、売掛金、買掛金の管理用に取引相手別にT字勘定を記載することがあるが、これは「人名勘定」と呼ばれる。サザエさんでいえば、三河屋さんは磯野家に対する売掛金を管理するために磯野家のT字勘定を記録するほか、伊佐坂先生、中島家、花沢家への売掛金のT字勘定も作成する。
そして、三河屋のサブちゃんが花沢家に清酒「一升・2000円」をツケで配達したら、サブちゃんは花沢家との取引を記録するT字勘定の左側(借方)に2000円と記載する。三河屋から見ると2000円は売掛金(債権)なのだが、「相手の立場で考える」の法則から考えると、花沢家は三河屋に2000円を借りていることになるからだ。さらに、2000円の原因になる取引として「清酒一升」を売上勘定の右側(貸方)に記載すればよいのだ。
現金の動きをT字勘定で記録することもある。現金が入ってきた場合は借方に記載して、出金は貸方に記載する。貸方に記録するのは、「出納係が払い出した金額」であり、反対に現金のT字勘定の借方への記録は「出納係が預かった金額」と考える。現金勘定は「出納係の立場」と見るとわかりやすい。
ちなみに明治の日本に簿記の考え方を普及させた人物として福沢諭吉が有名だが、当時「debit」を「借」、「credit」を「貸」と翻訳したことが、今日の会計実務につながっている。
自分たちの帳票を相手の立場で考えることを不思議に思うかもしれないが、駅のホームに流れる「白線の内側にお下がりください」というアナウンスを聞くと、多くの日本人はホームの中央寄りに移動するだろうが、米国人は線路寄りをイメージすると聞いたことがある。かくも感覚は異なるのだろう。
難しいことはさておき、借方か貸方かの判断に迷ったときには「相手側から考えて……」の呪文を唱えていただきたい。