選挙でも日々の買い物でも、自分の意思決定が主体的なものであるとは限らない。「自分で選んだ」つもりでも、実は「誰かに選ばされている」。コラムニストの河崎環さんがそのメカニズムを紹介した『自分で選んでいるつもり 行動科学に学ぶ驚異の心理バイアス』を読み解く――。

自分で選んだつもりでも…

世界各国で大小さまざまな規模の選挙が行われ、幸いにも参政権を与えられた有権者たる私たちは、投票行動でもって自分の意思を表現したつもり、ではある。そして政治家たちは世に自らの信を問うたつもりだろう。

その結果として政権交代などすれば、「ほら見たことか、これが有権者の意思であり国家の意思である、我々は政局を勝ち抜き我々を正しく導く強いリーダーを選んだのだ、これがまことのミンシュシュギなんだ」と、自分たちの生き方がまるっと承認されたかのような陶酔を見せる。

だが、残念ながら選挙で誰かが選ばれたからといって、それが立派な民主主義を実践した証明にはならないのは、「我々は民主主義国家である」とうそぶくキナ臭い国々、あるいは今年の米国を見れば明らかだ。

選挙日に候補者に投票する人々
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そんな、自分で生きているつもり、自分で選んでいるつもりの我々は、実は誰かの意図に「選ばされ」「生かされている」。『自分で選んでいるつもり 行動科学に学ぶ驚異の心理バイアス』(リチャード・ショットン・著、上原 裕美子・訳/東洋経済新報社)が教えるのはそんな遠慮容赦ない事実である。

行動科学をマーケティングに応用する専門家が解き明かす、16と1/2の強力な心理バイアスと、ビジネスにおける実践例。無意識のバイアスが人々の「欲しい」を導いており、「心の癖」を知れば、人の行動を変える――操作する――ことができるそうだ。

「産出効果」や「レッドスニーカー効果」、「ピーク・エンドの法則」など、行動科学や心理学を応用し、メッセージやデザイン、見せ方を変えれば、購買行動は大きく変わる。ビジネスの成功の鍵を握る知見が満載! 衝撃の内容に大絶賛の嵐!――とのことだが、さて。