日本人が食べるマグロの刺し身の7割は、遠洋漁業によって獲れたものだ。だが今、マグロの遠洋漁業は存亡の危機に瀕している。時事通信社水産部の川本大吾部長は「日本人船員は過去20年で8割も減った。船主は洋上でもネットが使えるように衛星通信サービスを船に導入するなど、若手漁師定着に向けて対策を進めている」という――。
静岡県の焼津港で陸揚げされる冷凍マグロ
筆者提供
静岡県の焼津港で陸揚げされる冷凍マグロ

日本の刺し身用マグロの7割を支える遠洋マグロ漁

真夜中、漆黒の海へ船を出し、荒波に揉まれながらマグロを狙う漁師たち。年末年始、テレビの特別番組では、青森・大間の漁師が一獲千金の大モノを求め、海と格闘する様子が紹介されるのが恒例だ。マグロ漁といったときに思い浮かぶひとつに、このイメージがあるだろう。昨年12月下旬には、かつて東京・豊洲市場(江東区)の初競りで3億円を超える一番マグロを釣り上げた漁師が、漁船の転覆により命を失った。まさに危険と隣り合わせの仕事だ。

一方、マグロ漁にはもうひとつのイメージがある。

「借金を返せないのならマグロ漁船に乗れ!」
「内臓売るか、それともマグロ漁船に乗るかだ!」

マンガやドラマあるいはコントなどの中で、こうしたセリフを一度は見聞きしたことがあるはずだ。

この場合に想像されているのは、小型船に乗って1〜2人で出漁する大間のような近海マグロ漁ではなく、複数人で船に乗り込み、長期間にわたって世界中の海を回る遠洋マグロ漁だろう。

水産庁や業界団体などによると、メバチマグロをはじめとする日本の刺し身用マグロ類の7割以上は、遠洋マグロはえ縄漁によってまかなわれている。日本人のマグロ好きを支える、重要な仕事だ。だが今、遠洋マグロ漁は深刻な漁師不足により、存続の危機にあえいでいる。