患者が中心にいる最期の時間を在宅医療で
ミャンマーからの帰国後、安井さんは、形成外科の現場で腕を磨いていた。東日本大震災では、発生から数年間にわたって三陸に通い医療をサポートした。
そこで知ったのが「在宅医療」だ。
在宅医療とは、高齢などの理由で通院や入院が困難な人の自宅などへ、医師が訪問して医療を行う制度のこと。医療器具の発展により、緩和ケアの領域などでは病院と同等の医療サービスを受けることができる。
「病院という箱モノがなくても、医療はできる。しかも、それまで続けてきた毎日の営みの場で最期を迎えることができるとしたら、ミャンマーで見たような、患者本人が中心にいる最期の時間を実現することができるんじゃないか」
1年後、安井さんは「やまと在宅診療所高島平」(現やまと診療所)を立ち上げた。
やまと診療所は、最初から順調だったわけではない。理想的な「看取り」で家族から感謝されることがある一方、描く理想をなかなか実現できないことも続いた。
その中で生まれたのが、医師、看護師に「在宅医療PA(以下、PA)」を加えたチーム体制だ。PAは「Physician Assistant」の略で、診療をサポートする。
「PAは患者さんや家族の思いを聞いて、患者さんの残された時間の中での“物語”を一緒に考えます。PAこそが、私たちTEAM BLUEの核なのです」
その後、訪問看護や訪問歯科などの事業もスタートさせ、在宅での医療サービスが充実。21年には、「おうちにかえろう。病院」を開業した。現在、都内7区で、患者数は1100人超、年間500人以上の看取りを支えている。
23年からは、在宅医の養成も始めた。
安井さんは医師として医療の現場に立つことはなくなり、TEAM BLUEの指揮官の役割を担っている。
「医学を学び、医師としての経験があるからこそ実現できることもあると思います。『温かい死』のための在宅医療もその一つだと思います。多くの人が最後まで『自分らしく』生きることができる社会を、私は実現したいと考えています」
「温かい死」が日本中に広がることを祈らずにいられない。
安井 佑さん
医療法人社団 焔 理事長 「おうちにかえろう。病院」開設TEAM BLUE 代表
経歴
2005年 東京大学医学部卒業後、国保旭中央病院で研修。「ジャパンハート」に参加して1年半、ミャンマーで医療支援活動に従事
2009年 杏林大学病院、東京西徳洲会病院勤務
2013年 33歳のとき、東京・板橋区に「やまと在宅診療所高島平」(現やまと診療所)開業
2015年 医療法人社団焔設立。在宅医療PA®(医療・看護以外をサポートするフィジシャンアシスタント)制度設立
2017年 代々木上原、荒川、ときわ台にも拠点設立
2020年 TEAM BLUE発足、「おうちでよかった。訪看」「ごはんがたべたい。歯科」開設
2021年「おうちにかえろう。病院」開設
2024年 在宅医の教育プログラム「AHC」開講。「やまと診療所練馬」開設