キャンプの夜、宿泊先のホテルから飛び降りようと…
社会人2年目の沖縄キャンプでも結果を残すことができず、宿泊先のホテルから飛び降りようとする自分がいた。
「本当に死んだほうが楽だと思うところまでいきました。でも、そこで、『あれ、俺は今まで本気で野球をやっていたかな』と思って踏みとどまったんです」
失意のどん底から這い上がった人間は強い。そこから麻雀やカラオケなどの遊びを封印し、24時間365日、野球のことだけを考えた。
「あと2年、本気でやってみようと思ってから変わりましたね。ベストナイン、橋戸賞(都市対抗のMVP)、社会人の侍ジャパンにも選ばれて、タイトルを全部かっさらってから辞めようと心に決めました」
試合に出続けるため、まずは首脳陣に本気度をアピールし、苦手とする一塁守備から徹底的に鍛え直した。打撃では長打率を上げるための改善方法をA4のレポート用紙にまとめ、所属部署の部長に提出。データとして明確に出た答えは「高めと真ん中の“T字”ゾーンを打った時は長打になりやすい」ということだった。
個人タイトルを制覇しても足りなかったもの
「長打率を上げるために、2ストライクまでは高めのボールだけを“マン振り”で打ちにいったら、本塁打が増えました。追い込まれたり、得点圏に走者が出たりすれば、大学時代にやっていた右打ちに切り替えることで、打点も増えていきました」
そして3年目の2019年。沓掛さんは4番打者としてアマチュア最高峰の大会である都市対抗で準優勝に貢献し、打撃賞を受賞。年間ベストナイン、打点王(20打点)、本塁打王(6本塁打)など、数々の個人タイトルを総なめにした。
さらに、侍ジャパン社会人日本代表にも初選出され、アジア選手権で銀メダルを獲得。有言実行の活躍を果たし、引退も頭をよぎったが、都市対抗決勝で3打数3安打と活躍してもチームを優勝に導けなかった4番の責任感から、あと1年間、現役続行を決意した。
そして2020年、日本一で有終の美を飾ろうと意気込んだが、新型コロナウイルスの世界的流行が猛威を振るう。春先から練習も試合もできず「ラスト1年なのに……」と悶々とした日々が続く。ただ、コロナ禍は、改めて自分の将来を考える上で大切な期間となった。「最後は自分を育て、成長させてくれたトヨタに恩返しをして辞めよう」。都市対抗制覇のため、自身でプレゼン資料を作り、首脳陣にチーム改善を提案した。
ただ、東京五輪の影響で11月開幕となっていた都市対抗予選前にはスタメンを外されることもあった。そのため、予選から調子をピークに持っていき、アピールする必要があった。そのひずみからか、都市対抗本戦では不調の波に襲われ、3打数無安打で初戦敗退。試合翌日、監督に「最後は自分の実力不足です。社会人野球人生、燃え尽きました」と現役引退、同時に退職の旨を伝えた。