認知症・理解ワード② 本人が思ったことは絶対的な真実

CASE2 「こんなおじさん、夫じゃない」と言う妻
イラスト2
イラスト=上大岡トメ

B夫さんの妻はアルツハイマー型認知症と診断されています。介護サービスなどを利用しながら二人暮らしを続けていますが、たまにB夫さんを忘れてしまうことがあるそうです。デイサービスから帰ってきた妻に不審な顔をされ「お父さん、まだうちにいるの?」と言われたことも。「お父さん」とは妻の父のことなので、「オレはお前の夫だ」と言うと「こんなおじさんが?」と言われ、B夫さんはショックを受けました。

妻は疑り深くもなり、「誰かが私の通帳を盗んだ」と騒ぐこともあります。わかってほしいと思い、B夫さんはやさしく丁寧に説得するのですが、言えば言うほど怒りだします。自分が否定されたようで傷ついてしまうB夫さんなのです。

身近な人ほど誤認しやすい。話を合わせて安心させてあげよう

認知症の人の記憶は、現在に近いところから過去に向かって忘れていく傾向があります。古い記憶が薄れるのではなく、新しい記憶から消えるのです。それも「まだら」に起こるので、あるとき突然少女時代の記憶がよみがえって、夫を父親だと認識したり、娘を姉だと勘違いしたりします。また、見当識障害のせいで人の顔をとり違えることも多く、これは「人物誤認」といわれる典型的な症状です。夫と父親は血縁関係もない別人なのですが、「自分にとって親しい男性」という枠組みの中でとり違えられてしまうのです。「お金が盗まれた」というのも、典型的な認知症の症状です。

「なくなった」という事実を前にして、自分の失敗を認めたくないという気持ちも働くのでしょう。いずれにしても否定すればするほど不安になり、さらに混乱します。認知症の人の言葉をまるごと受け止め、それが真実であるという行動をするのが一番です。父親とまちがわれたら、「じゃあ、お父さんはもう帰るよ」と家を出て、時間をおいて戻るのもいいでしょう。それでリセットされるケースも多いものです。