認知症・理解ワード③ 認知症の症状は身近な人に強く出る

CASE3 兄の言うことは素直に聞くのに!
イラスト3
イラスト=上大岡トメ

C美さんの家の近くに住む母は、もともとは活発で意欲的な人。C美さんの父が亡くなってから元気がなくなり、あまり外出もしなくなりました。しだいにもの忘れが増え、同じ話を何度もくり返すようになりました。認知症の検査をさせようとしても「絶対に行かない」と言い張り、地域包括支援センターの人が様子を見に来ても「けっこうです」とドアを閉めてしまいます。ところが、隣県に住む兄が会いに来ると笑顔になり、兄が受診をすすめると「わかった」と素直に受け入れたのです。でもそれはその場だけで、C美さんが受診に誘うと嫌がります。兄に相談すると「受診しなくても、お母さんは大丈夫だと思うよ」と言うので、C美さんはモヤモヤしてしまうのです。

症状の出方には波がある。反発するのは信頼されている証拠
上大岡トメ『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』(主婦の友社・監修:杉山孝博、黒田尚子)
上大岡トメ『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』(主婦の友社・監修:杉山孝博、黒田尚子)

認知症の症状は、身近な人に対してより強くあらわれるものです。普段はトンチンカンな話をしたり、強い言葉で拒絶したりしている人が、たまにしか会わない人にはしっかりした姿を見せ、素直に意見に従うのはよくある姿です。「私が大事にしている○○を盗まれた」という場合にも、犯人扱いされるのはたいてい身近な人です。残念ですが、「そういうものだ」と納得するしかありません。

家族にとってはつらい話ですが、そこには深い信頼があるからだと私は思います。幼い子どもと同じです。内弁慶という言葉がありますよね。ママやパパに対してはワガママ放題な子でも、幼稚園に行くと素直でおとなしくなってしまう子のことです。

認知症の人も、親に甘えるように身近な介護者に甘えているのでしょう。私たちだって家族の前では遠慮なく思ったことを言うし、だらしない姿も見せるものです。認知症の人は認知機能が低下しているせいで、「こんなことを言ったら傷つくのではないか」という想像力も働かなくなっているのだと思います。

〔全体監修〕
杉山孝博
川崎幸クリニック院長
社会医療法人財団石心会理事長。1947年、愛知県生まれ。1973年東京大学医学部卒業。患者さんとその家族とともに50年近く地域医療にとり組む。1981年からは公益社団法人 認知症の人と家族の会の活動に参加。認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護の制度化や、グループホームなどの質を評価する委員会などの委員や委員長を歴任。『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、『認知症の人の心がわかる本 介護とケアに役立つ実例集』(主婦の友社)など著書、監修書多数。また監修・出演した映画『認知症と向き合う』(東映教育映像)も、わかりやすいと大好評。
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