バイトをしてもお金が貯まらない苦学生生活

「今、出て行かれたら、妹の世話はどうするの? 学費は?」

ただ、このときばかりは、ツムギは自分を貫いた。

「学費は奨学金、その他はアルバイトをして自分でなんとかする、実家から通うから安心して」と話してなんとか納得してもらった。

ツムギは予備校に通うこともなく、予備校に通う友人の参考書をコピーして勉強するなどして、見事難関私大に合格した。これでツムギはある程度の「自由」を摑んだはずだった。このときばかりは、母親もご馳走を用意して、祝福してくれたのはうれしかった。

だが、覚悟していたとはいえ、憧れの学生生活はバラ色ではなかった。

実家から大学まで電車で2時間以上かかった。朝6時に家を出る。勉強を終えて地元のターミナル駅に帰ってくるのは夜の8時を回った。そしてターミナル駅近くで見つけた居酒屋でアルバイトし、午前1時すぎに帰宅。一日のアルバイト代は5000円程度、週に5日入っても10万円には遠く及ばない。教材費や定期代、さらには携帯代などを払うと手元にお金はほとんど残らなかった。

サークル活動や同級生同士の飲み会など、数えるほどしか行ったことがないとツムギは言った。キャンパス生活を謳歌するのにはほど遠い「苦学生」だった。

クレジットカード
写真=iStock.com/hatchapong
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毎年100万円の奨学金が重くのしかかる

さらに――ツムギの肩に重くのしかかろうとしていたのは、毎年100万円の「奨学金」という名の「借金」だった。

それでもツムギは、不満を口にするでもなく、自らを律するように黙々と学生生活を送った。母親にわがままを言って大学に進学したという、ある種の負い目があったのだ。

そんな日々を、そしてツムギの未来を変える出会いがあった。アルバイト先でのことだった。アルバイト仲間から「トモさん」と呼ばれていた20代後半の女性だった。

10代の学生が多いアルバイトの中では年齢は高く、みんなのお姉さん的な存在だった。

細身で美人、ギャルっぽい雰囲気のトモさん。ツムギの第一印象は「自分とは何となく世界が違う人」といったものだったが、ツムギはトモさんと話すのが好きだった。

どこか姉御肌を感じさせるトモさんは、ツムギにざっくばらんに自分の過去を語った。