バイト1カ月分の給料をたった3日で稼げる
「ちょっと化粧変えて、かわいい服を着れば大丈夫だよ。それに、むしろケバい私みたいな女より、ツムギちゃんのような真面目なタイプのほうが人気あるんだって。たしか、英語は話せるよね?」
日常会話ぐらいならできるという自信がツムギにはあった。が、自分が海外に行ってそんなことをするなんて。かぶりを振ったツムギだったが、トモさんの次の言葉に心が大きく揺れた。
「2泊3日で15万円はもらえるかな。航空券代は自腹だけど、往復で2万5000円くらいでしょ? 経費を差し引いても10万円は残ると思うよ」
自然と頭の中で皮算用を始めていた。バイト1カ月の稼ぎがたった3日で賄える。しかも、トモさんも同伴するということがツムギの背中を押した。
「この人と連絡取ってみて」
トモさんがスカウトのLINEを教えてくれたので、すぐに連絡を取った。スカウトは「海外の高級デートクラブでの仕事」と言った。
「高級デートクラブ」は違法な風俗
その日、ツムギはスマホで台湾のデートクラブや法律事情を調べてみた。
台湾では売春が合法のエリア「性交易専区」というのが存在する。しかし、そこには売春する風俗店の類いはなく、合法的売春は台湾には存在していないということ。さまざまな風俗店があるがそれらはすべて違法だということ。つまり、ツムギが行こうとしているデートクラブも違法な風俗だということ。
それよりも初めての海外旅行に胸が躍っていた。「ひと晩男と寝るぐらいなんでもないではないか、きっとトモさんもそばにいてくれるだろうし」と。
ツムギはすぐに期限が5年間のパスポートを申請し、母親には大学の同級生と海外旅行してくるとウソをついた。母親はいい顔はしなかったものの、「自分のお金なら」とさほど反対されることはなかった。
2024年1月中旬。母親の遅めの正月休みに合わせるようツムギは初めての海外に出かけた。実家に子どもを預けてきたというトモさんと2人で台北に渡った。格安航空券はトモさんが取ってくれた。3泊4日の予定だった。
初めての飛行機は怖かったが、海外への期待が上回った。機内でトモさんからメイクのレクチャーを受け、台北の空港に着き入国審査を終えると、トモさんが持ってきた服に着替えた。キャバクラ時代の服だというが、パンツルックばかりだったツムギには膝上のミニスカートが恥ずかしかった。ヒールがある靴など、大学の入学式以来だった。
こうして「商品」としての準備が整った。