法律ではないのに、なぜ強制力があるのか

この「オンライン資格確認」が2023年4月から保険医療機関、薬局で原則義務化された。その根拠とされたのが、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)のもと改正された、厚生労働省令の療養担当規則である。

・患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合は、オンライン資格確認によって受給資格の確認を行わなければならない。
・患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合に対応できるよう、あらかじめ必要な体制を整備しなければならない。

上記のような「義務」が保険医療機関・薬局に課されることになったのである。

今回の原告の主張とは、端的にいえば、この「義務化」の法的根拠とプロセスに看過できない瑕疵があるというものだ。

具体的になにが問題かと言うと、この「義務化」の法的根拠とされているものが、国会が制定した「法律」ではなく、それよりも下位の療養担当規則(厚生労働省令)であるという点だ。

そして下位の法令とはいえ、この療養担当規則に違反しているとされた医療機関は、保険医療機関の指定取り消しや保険医登録の取り消しといった、保険医療機関としての「死刑宣告」が下される可能性もある。

原告は「憲法41条に違反する」と主張

そもそも国民に義務を課すにあたっては、国民により選挙された代表機関である国会が審議・議決して定めた「法律」を根拠とする必要がある。にもかかわらず、これによらない所管大臣による「省令」によって国民に義務を課すのは、国会が国権の最高機関であり唯一の立法機関であると規定する憲法41条に違反するではないか、という原告の主張は、私には至極まっとうに思える。

一方、「法律」によって「個別・具体的な委任」がなされた場合には、省令等の下位規範で、その委任の範囲内でルールを決めることが過去の最高裁判例で認められてはいる。今回、被告となった国も、上位の法律である健康保険法70条1項を、下位の省令に委任できる根拠とした。

【参考】第70条 保険医療機関又は保険薬局は、当該保険医療機関において診療に従事する保険医又は当該保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師に、第72条第1項の厚生労働省令で定めるところにより、診療又は調剤に当たらせるほか、厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならない。