システムを導入できなければ最悪「廃業」

これは現場の医師から言わせれば非常におかしな話である。同法が省令に委任しているのはあくまでも「療養の給付」。これは医師側が患者さんにたいしておこなう診療等の医療サービスを指すものであって、患者さんの「資格確認」すなわち療養の給付を受けるための「方法」とは、まったく別物だ。

だが判決は、国の主張をそのままなぞって、健康保険法70条1項が、療養の給付という医療サービスそのものに限定せず、それにあたって「遵守することが必要な事項」すなわち「被保険者の資格確認」についても省令に委任することは自然であるとしたのである。

またこの「必要な事項」の決め方についても「時宜を得た柔軟な検討が必要」であるため「必ずしも国会での審議になじむものとはいえ」ないから、「厚生労働大臣の専門技術的裁量に一定程度委ねているものと解するのが相当」とした。

つまりすべての保険医療機関に「オンライン資格確認」の体制整備をするよう「義務」を課すという「大ごと」であっても、わざわざ国会で審議した法律によらず、厚生労働大臣の裁量で決めても良かろうと判断したのである。

このシステム導入には、当然ながら費用がかかる。とはいえ「義務化」となれば、費用負担が理由だろうと省令に違反したとされた場合、最悪「廃業」に追い込まれる。

白衣を着たアジア人男性医師
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原告の主張に対し、東京地裁の判決は…

原告は費用負担を理由に廃業した実例を挙げるとともに、医療機関が廃業に追い込まれる現実的なおそれが増大すれば、患者さんの医療へのアクセス権にも大きな影響をおよぼし得るということも訴えたが、これについても判決では、国も医療機関に補助金は出しており、7割の医療機関はこの補助の範囲で体制整備がおこなえているから、「事業継続を困難にするようなものに相当すると直ちにいうことはできない」との認識を示した。

さらに「オンライン資格確認」の導入にともなって発生したトラブルについても、「被告(国)もこれを減少させ、患者及び医療機関等に不利益が及ばないような取組をしているから」トラブルの発生をもって「直ちにオンライン資格確認による利点等が否定されるものともいえない」と、徹頭徹尾、国を擁護する判決を下したのであった。

もちろん私も法律家ではないから、この判決について専門的な反駁はんばくはできない。しかし、なんらかの義務や権利の制限を国民(法人を含む)にたいして課すのであれば、それは国権の最高機関である国会で審議するという、真っ当なプロセスを経て制定された「法律」によって規定されねばならない、ということくらいは理解できる。