日本でも輸入品の価格が高騰する可能性が

筆者も1970年代後半に米国に留学していた時、サンフランシスコの日本食レストランでキッチンヘルパーのアルバイトをして、メキシコやエルサルバドルなどから来た不法移民と一緒に働いた経験があるので、彼らの勤勉さや性格の良さ、家族思いのところなどはよくわかる。

彼らは朝から晩まで不平不満を言わずに一生懸命に働き、店のオーナーや厨房仲間、お客からも好かれ、本国にいる家族に仕送りをしていたのである。

だからこそ不法移民は米国の多くの職場で必要とされているのだろう。

また、日本の食料自給率は40%前後と低く、食料の多くを外国からの輸入に頼っている。そのなかでも特に米国への依存度が高く、豆腐、味噌、納豆などに使われる大豆や、パン、パスタなどの材料の小麦、主に家畜の飼料として消費されるトウモロコシはともに米国からの輸入が大部分を占めている。

広大な畑で小麦の収穫中
写真=iStock.com/Bilanol
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ほかにも、日本で販売されているグレープフルーツは米国産のものが多く、アーモンドは97%が米国から輸入されているという。

米国の農業労働力を支えている不法移民が大量に強制送還されることで食料価格の高騰が懸念されているが、その影響は米国内の消費者だけでなく日本にも及ぶ可能性はある。

もっとも移民に厳しかったのはオバマ政権だった

「移民大国」と言われる米国では、不法移民への対応は歴代の政権にとっても頭の痛い、厄介な問題だった。つまり、寛容すぎても、あるいは厳しすぎても批判されるということである。

その中でも特に評価が分かれたのは、1986年にロナルド・レーガン大統領が署名して成立させた「移民改革管理法(IRCA)」だ。これは、1982年以前に入国した不法移民全員(約300万人)に恩赦を与えるもので、約290万人が名乗り出てグリーンカード(永住権)を付与され、合法的に滞在できるようになった。

比較的不法移民に対して厳しい姿勢の共和党政権がこのような寛大な政策を実行したのは意外だったが、レーガン大統領は「たとえ過去に不法入国したとしても、この国に根を下ろして暮らしている人たちには恩赦を与えるべきだと私は信じている」と述べて、反対派の議員を説得した。

しかし、その後、「1986年の恩赦は他の国の人々に米国への不法入国を促すものとなった」などの批判が出て、恩赦はなくなり、国境警備が強化された。それでも不法移民は増え続けた。

2009年に発足したオバマ政権は寛容さと厳しさを組み合わせた移民対策を実施した。厳重な取り締まりを行って8年間で約300万人の不法移民を強制送還し(どの歴代政権よりも多い)、その一方で子どもの頃に米国に連れてこられた約75万人の不法移民が合法的に滞在できるようにするための「若年移民に対する延期措置(DACA)」を講じたのである。