移民排除には最大で約145兆円かかる
すべての不法移民を強制送還するには、途方もない費用がかかる。
移民政策の教育啓発などを行っている非営利団体、米国移民評議会(AIC)が2024年10月に公表した報告書によれば、米国には2022年現在、約1100万人の不法移民が滞在し、これに23年1月から24年4月に不法入国した230万人を加えると、その数は計1330万人となる。
彼ら全員を逮捕・拘束し、司法手続きを経て送還するには10年以上の年月と数百から数千の新しい収容施設が必要となり、約10年で総費用は9670億ドル(約145兆円)に上ると推定されるという。
これは日本の国家予算約112兆円(2024年度)を上回る金額だが、この費用は当然、米国の納税者が負担することになる。
この直接的な費用に加えて、不法移民を排除すれば、政府は彼らが納めている税金を受け取れなくなる。つまり、税収の一部が失われるということだ。移民研究センター(CIS)の調査によれば、不法移民は連邦・州・地方税に970億ドル(約14兆円)を納めているという。
これだけの莫大なコストがかかるにもかかわらず、トランプ氏はなぜ大量強制送還を強引に進めようとしているのか。その理由の1つとされるのが、「不法移民の犯罪率は高い」という主張だが、実はこれには全く根拠がない。
「不法移民は暴力犯罪を起こしている」は本当か
トランプ氏は莫大な費用がかかることについては、「これはお金の問題ではない。不法移民が人を殺している。選択の余地はない」と言い切っている。
また、トランプ氏が「国境管理責任者」に任命したトム・ホーマン氏も「不法移民は公共の安全を脅かしている」と述べ、「一人残らず国外追放する。荷作りをしておいた方がよい」と警告している。
しかし、実際には不法移民が強盗、傷害、殺人などの暴力犯罪に手を染める割合は米国生まれの市民よりはるかに低い。
連邦司法省(DOJ)傘下の研究・教育機関である国立司法研究所(NIJ)が、メキシコとの国境沿いにあるテキサス州の公安局が収集した過去の犯罪データをもとに行った分析調査によれば、不法移民が暴力犯罪と麻薬犯罪で逮捕される割合は米国生まれの市民の半分以下、また財産犯罪(窃盗、詐欺など)においては米国生まれの市民の4分の1以下であることがわかったという。
この調査は2012年から2018年までにテキサス州内で逮捕された全ての人の犯罪記録と移民ステータスを調べ、不法移民と合法移民、米国生まれの市民の3つのグループの暴力犯罪と財産犯罪の犯罪率を比較分析したものだ。全体を通して不法移民のグループはほとんどの犯罪において最も低い犯罪率を示し、逆に米国生まれの市民の犯罪率は最も高く、合法移民は両者の中間を示したという。
このような状況にもかかわらず、トランプ氏は「不法移民が人を殺し、この国を破壊している」と言い続けている。問題は米国人の多くがその嘘を信じて、トランプ氏を再選させたことではないか。