不法移民なしでは、いまの米国は成り立たない
それからバイデン大統領は2020年の大統領選で、「米国に住む1100万人の不法移民に8年間で市民権を取得できる道筋をつける」と公約したが、「さらなる不法移民を引き寄せることになる」との共和党議員らの反対もあり、実現できなかった。
米国では政権が交代するたびに移民対策も変わり、長期的かつ継続的な視点に立った実効性のある政策をなかなか実行できずにいる。その挙げ句にトランプ次期政権による大量強制送還だが、はたしてどうなるのか。
1つだけ確かなことがある。それは、不法移民は米国の経済と雇用にとって必要不可欠な存在になっていることだ。
不法移民はさまざまな産業分野の労働力を支え、年間1兆ドル(約150兆円)の収入を生み出し、この額は米国のGDPの約3.5%を占めている。大量の不法移民を強制送還すれば、深刻な人手不足によって企業の業績が低下し、結果的に移民だけでなく米国市民の雇用も失われることになる。
「移民が作った国」だということを思い出すべき
国際経済問題について分析・政策提言を行っているシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の研究調査は、第2次トランプ政権が130万人の不法移民を強制送還した場合、2028年までに雇用が0.8%減少し、800万人を超える大規模な送還をすれば。雇用は5.1%減少すると推定している(CBSニュース、2024年10月17日)。
不法滞在者を含め、多くの移民を受け入れているカリフォルニア州サンノゼのマット・メイハン市長はトランプ氏の計画に反対し、こう述べている。
「就労許可を持たない人を含めて、移民の大多数は法律を遵守しています。実は就労許可のない人の方が犯罪率は低いのです。まじめに働いて、税金を納めて社会に貢献しています」
移民を排除するのではなく、社会の一員として積極的に受け入れ、包摂していくことが必要なのではないか。そもそも米国はヨーロッパからの移民によって建国され、世界中から移民を受け入れることで、経済・社会・文化を発展させてきた。
トランプ次期大統領にはそのことを思い出してほしいものである。