精一杯の善処をしてくれた担当刑務官
いつの間にか1時間半が経っていた。昼食時間だからと呼び戻しに来た刑務官と一緒に袴田さんを送りに舎房の二階に上がった。すさまじい蒸し暑さだった。
私は担当職員に私の泊まり込み期間中に限って、雑誌を貸与してくださいとお願いした。困った顔をした担当職員に、保安課長にはお願い済みですと言った。
二つ返事で了解した担当刑務官がメモ用紙を差し出し、「ここに今日の日付と返還期日を書いて署名してください。本の裏面に貼っておきます。捜検で取り上げられないようにするためです」(注・捜検とは刑務官による居房内の検査で逃走の防止、不正物品の所持を防止するために毎日行うことになっている法律で規定された職務の一つ)
40歳前後の刑務官はメモに自分の印鑑を押してから雑誌に糊付けした。保安課長にお願い済みというのは私のでまかせで、虚言とわかった上で彼ができる精一杯の善処をしてくれたことは、彼の表情でわかった。担当刑務官は「必要なところはノートに書き留めておきなさい」と言って雑誌を袴田さんに手渡した。
袴田さんは担当に頭を下げた。彼にも担当刑務官の善意が伝わったのだろう。
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