ガラパゴス的学歴観から脱却し専門知識を生かせ
【西田】大学で何を学んだかということよりも、難しい大学に入学できたという事実が労働市場で評価されるんですね。その労働市場の構造やあり方は大学受験の過熱を引き起こす一因でもありますし、ひいては中学受験の過熱もそうした学歴観の延長線上にあると言えます。新卒採用も大雑把。
【安田】日本では大学の成績や学んだ内容が企業にあまり評価されない傾向である一方、アメリカでは成績に対するこだわりがすごいですよね。僕も留学先でティーチングアシスタントとして学部生を教えていた時、彼らがGPA(Grade Point Average:大学の成績評価)を高めるために必死に勉強していた姿が印象的でした。就職の際に成績がアピールポイントになることが多く、大学名だけでは評価されないからです。
【西田】海外では学部卒以上に、修士や博士課程でどれだけの知識やスキルを積み上げたかが重視されますからね。つまり「人的資本」の世界。日本の賃金体系も大学院修了者と学部卒の間で、差が出始めていることも最近のデータではわかっています。大学院を出ることが昇進や賃金面で有利に働くケースが増えていくと、従来の学歴観も少しずつ変わってくるように思います。
【安田】「人的資本」のアメリカでも、学歴による賃金格差はさらに広がっているんです。特にITなどの技術革新によって高いスキルが企業で求められるため、高学歴者とそうでない者の賃金差が拡大しています。同時に、男女間の賃金格差は縮小しています。
【西田】そうした流れを踏まえたうえで、日本はどうすればいいですかね。
【安田】大学や大学院で学んだスキル・知識が就職やビジネスの現場で生かされるような変化を期待したいですね。専門知識を学んだ人を現場でどう生かしていくかは、日本社会の抱える大きな課題です。その解決には、ガラパゴス化した日本の「学歴観」から脱却して、国際的な視点で「何を学んだか」が評価される社会に変えていくことが必要でしょう。「シグナリング」としての学歴だけでなく、「人的資本」としての学歴も重視されるようになれば、日本はもっとイノベーティブな社会に変われると思います。
【西田】学歴を今までとは違った形で捉え直すことは、社会全体が修士や博士に行く人たちを後押しすることにもつながりますね。学校名だけではなく、大学で学ぶこと自体も重要だし、何を学んだかも重要。「人的資本」の考え方の重要さに企業を含め多くの人たちが気づいていくことが、日本の学歴の在り方を変えていく第一歩につながるのかもしれませんね。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月15日号)の一部を再編集したものです。