上長だけではなく、最終的には企業で対応することに

このケースでは、まず女性社員の上長にこのクレーマーの具体的な言動や頻度などを把握してもらうこと。その上で、上長ができれば一緒に対応することをお願いしました。すると、上長との情報共有のなかで、そのAさんは自分の担当しているケースの厄介さを他の人にもわかってもらえ、少し気持ちが楽になり、症状が少し改善しはじめました。

一方、上長は手こずるクレーマーがいること自体は把握していましたが、具体的な内容までは把握していませんでした。それが実際に女性社員と一緒に対応するようになり、部下の不調原因が明らかにこのカスハラによるものと思えたとのことでした。

すると上長は、自分の上司や他部署に掛け合い、このクレーマーに対する企業としての断固たる態度を明確にしてくれました。そして具体的に、次にまたクレームがあった場合の言うべき言葉、送るべき文書などを女性社員に提示してくれたのです。

最終的に、このクレーマーからの対応は、会社の他の部署が企業として対応することになりました。女性社員は気持ちが楽になっただけでなく、会社と上司が自分を守ってくれることを肌で感じることができ、ますます会社が好きになったとのことでした。

「消費者から」のカスハラと「取引先企業」からのカスハラ

私の産業医クライエントにおけるカスハラには2種類あります。1つめは消費者(個人のお客様)から社員に対するもの、2つめは取引先企業(元請け企業、発注企業)社員から私のクライエント企業社員に対するもの(サプライヤーハラスメント)です。

Aさんの事例は前者に相当します。このような場合、症状に応じて医療受診を勧めますが、それ以外では、1.仲間を作り一緒に愚痴ること、2.上司にも報告する(愚痴る)か、上司にも実際に対応してもらい当事者意識を持ってもらうことをお勧めしています。クレーマーに対して辛い思いをしているのは自分だけではないという孤独感の解消と、具体的な手助けにつながる上司の関わりを促すことで、ある程度対処できることが多いと感じます。

では、取引先企業(元請け企業、発注企業)社員からのカスハラ(サプライヤーハラスメント、パワーハラスメント)の場合はどうでしょうか。

名刺交換をするビジネスパーソン
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