「ここを残しながら、新しい店をやりたい」

現在の千成亭は4人のアルバイトが入り、1日4人体制で稼働中だ。外で待っている客には先にオーダーを聞き、テーブルに付いたらすぐ料理が運べるようにオペレーションを組んでいる。以前は夜の営業もしていたが、今はランチのみ。午前11時から4時間で、他は丁寧な仕込み時間に充てる。

それでも1日に客足が途切れることはなく、ハイブリッド車1台分ほどの値段を毎月売り上げているそうだ。取材した日は、テイクアウトでたくさん注文する人も多かった。おそらく来客数以上の利益をあげているだろう。

回転率はやい
筆者撮影
満席になった店内の様子(写真の一部を加工しています)

だが、建物の老朽化は深刻だ。建物を補強しても、耐震に限界があるように見える。もし地震が来たら、誰もが一目散に外に飛び出すだろう。「このまま同じ場所で営業を続ける予定ですか?」と聞くと、武さんは2号店の構想を語ってくれた。

「地主さんに止められたらしょうがないけど、いろんな思い出がある店なので。ここは残しながら、新しいお店をやりたいです。お店は小さくてもいいですが、厨房と駐車場が広い場所を探しています。ここほどたくさんの車が停められる物件ってなかなか見つからないんですけどね」

廃墟寸前の市場に、明るい声が響く

「この店がなくなるとしたら、寂しいですね」と千秋さんに言うと、キョトンとした顔で「別に寂しくないかな」と返ってきた。

「私も歳が歳ですから、いつまでできるかわからへん。どんな場所でもええけど、生涯現役。一生働くつもりです。お父さんはね、あの世で『うちの店、こないなことになってますねん!』って自慢してると思いますわ」

少し間を空けて、千秋さんがこう言った。

「息子が自分の味を超えたっていうのが、一番の喜びやと思いますよ」

「……超えてはないで(笑)」と武さん。「超えとるで!」と千秋さん。2人は愉快そうに笑った。

「千成亭」の千久谷武さん
筆者撮影
「千成亭」の千久谷武さん。ヘアスタイルは美容師の姉が担当している
【関連記事】
「1日3食の規則正しい食事」は胃腸に悪い…10万人の胃腸を診た専門医がたどり着いた"朝食の最終結論"
「ゴミ屋敷になる家」は風呂場でわかる…老後のひとり暮らしが破綻する人に共通する「ゴミ屋敷化のサイン」
「その食材が出た日をもって番組終了だと考えていた」松重豊が明かす"トラウマ級の食べ物"の名前
「まずい、臭い、硬い」と酷評されていたが…牛肉、中トロより美味いのに日本人が食べなくなった「生肉」の名前
コメはザルに入れて研いではいけない…「3回と4回では味がまったく変わる」コメの正しい研ぎ方