「ここを残しながら、新しい店をやりたい」
現在の千成亭は4人のアルバイトが入り、1日4人体制で稼働中だ。外で待っている客には先にオーダーを聞き、テーブルに付いたらすぐ料理が運べるようにオペレーションを組んでいる。以前は夜の営業もしていたが、今はランチのみ。午前11時から4時間で、他は丁寧な仕込み時間に充てる。
それでも1日に客足が途切れることはなく、
だが、建物の老朽化は深刻だ。建物を補強しても、耐震に限界があるように見える。もし地震が来たら、誰もが一目散に外に飛び出すだろう。「このまま同じ場所で営業を続ける予定ですか?」と聞くと、武さんは2号店の構想を語ってくれた。
「地主さんに止められたらしょうがないけど、いろんな思い出がある店なので。ここは残しながら、新しいお店をやりたいです。お店は小さくてもいいですが、厨房と駐車場が広い場所を探しています。ここほどたくさんの車が停められる物件ってなかなか見つからないんですけどね」
廃墟寸前の市場に、明るい声が響く
「この店がなくなるとしたら、寂しいですね」と千秋さんに言うと、キョトンとした顔で「別に寂しくないかな」と返ってきた。
「私も歳が歳ですから、いつまでできるかわからへん。どんな場所でもええけど、生涯現役。一生働くつもりです。お父さんはね、あの世で『うちの店、こないなことになってますねん!』って自慢してると思いますわ」
少し間を空けて、千秋さんがこう言った。
「息子が自分の味を超えたっていうのが、一番の喜びやと思いますよ」
「……超えてはないで(笑)」と武さん。「超えとるで!」と千秋さん。2人は愉快そうに笑った。