その負のスパイラルに入らないためには、どうしたらいいのだろうか。栄養のバランスのいい食事を規則正しくとることが正解、と理解はできても、その生活習慣づけの実践が難しく思える場合はどう考えたらいいのだろう。今泉室長の答えはこうだ。
「欲張っちゃダメです。あれもこれもと完璧を目指すのではなく、自分ができるところから始める。朝食を食べていないのなら、パンと牛乳、そしてさっと洗ってドレッシングをかければいいだけの野菜を食べる。それだけで栄養はとれるし、何よりも自分で習慣づけられたら自信になります。私の栄養指導も、そんな話から始まります」
自分の食生活を見直したいなら、都道府県ごとに設置されている栄養士会のケアステーションという仕組みを利用し、直接、栄養指導を受けるのも手だという。もしくは近隣の保健所には必ず管理栄養士がいるので、そこで相談することも可能だ。
わざわざそこまで動くのは、という人は、定期健康診断の血液検査でひっかかる項目があった場合、「これは精神疾患につながる栄養問題かもしれない」という意識を持つだけでも、だいぶ対処の仕方が変わってくるだろう。日々の食生活のなかで、抜け落ちているもの、逆に過剰摂取しているものを、心の調子とともに自己点検する。
精神医学と栄養学の結びつきは、まだ弱い。が、「10年後には変わっていると思います」と功刀部長は言う。
「うつ病は“人生の危機”。心身の休息、環境調整、心理療法、投薬のほかに、食生活の改善をはじめとした生活指導も加え、総動員体制で治療する必要がある。そのために精神栄養学の発展が確実に求められています」