余命から2週間と2日

在宅介護を始めてから、笠間さんは夜中も夫にトイレに行きたいと起こされ、まとまった睡眠が取れずにいた。

朝6時に起き、夫のバイタルチェックをし、朝食を用意。7時には息子を起こし、夫に医療用麻薬を飲ませ、8時には清拭、歯磨き、着替えをさせ、その後も2時間おきに医療用麻薬を飲ませる。

昼は食べられそうなら食べさせる。

夫は寝ている間に暑いのか、服もオムツも脱いでしまうため、何度も着せる。オムツなしでオシッコをしてしまった時は、着替えやシーツ交換をする。

夫が眠ったら、その隙に30分で買い物へ行く。19時頃、笠間さんが10分でシャワー。20時頃に夫に夕飯を食べさせ、笠間さんと息子も夕飯。21時に歯磨きをさせ、一緒に就寝。

買い物やシャワーの時、笠間さんが目を離すと、夫はたいてい酸素吸入器を外し、服もオムツも脱いでオシッコをしてしまっていた。

7月22日。何度言っても服やオムツを脱いでしまう夫にイライラしてしまう笠間さんは、

「怒らないで! 怖い!」

と夫に怯えられた時、ハッとした。

「私の心が壊れてきていて、これはもうダメだなと思ったので、訪問看護をお願いしました。夫と息子以外の人と話せるだけでも救われました」

しかし7月25日。またしても服とオムツを脱いでの放尿。頭に来た笠間さんは、泣きながら暴言を吐いていた。

その後、仲の良い友達2人に「もう嫌だ。ダメだ」とLINEをすると、マクドナルドのハンバーガーやチョコレートを持ってきてくれた。1人はヘルパー歴25年。「これなら放尿されても被害が抑えられるよ」と、介護ベッドのマットの下にレジャーシートを敷いてくれた。

ビッグマックとフライドポテトとパイ
写真=iStock.com/-lvinst-
※写真はイメージです

「3時間くらい喋ったら、また頑張れそうな気がしてきました。下の世話が一番大変です。むしろそれだけに苦労していたように思います」

夫はもう、せん妄により意思疎通もできなくなっていた。訪問看護師は、

「ご主人の状況はかなり大変なのはわかるので、レスパイト(家族や介護者の休養を目的とした短期入院)を予約して休んでくださいね。先生も心配していました」

と言ってくれた。

7月25日。ついに限界を感じた笠間さんは、ヘルパーを毎日頼むことにした。

26日。寝ているはずの夫から変な声が出始め、しゃっくりまでし始めた。死前喘鳴しぜんぜんめい(※)だと思った笠間さんは、17歳の息子にそろそろだと伝えた。

27日未明。夫は息を引き取った。58歳だった。結局ヘルパーは利用できずに終わった。

※呼吸気時に咽頭や喉頭の分泌物が振動して発生する“ゼイゼイ”“ゴロゴロ”という呼吸音