そうなると、情けないのは日本の首相である。首脳会談やサミットなどで、海外の元首と会う機会も少なくないはずなのに、「ユーモアを駆使した日本国の首相」のエピソードはまったく伝わってこない。だが、それも致し方ないようにも思う。サミットの報道を見ていると、日本国首相は記念撮影に臨む際、ほぼ間違いなく、列の端っこで泣きそうな顔をしてカメラに向かっている。また、歩いているときでも、集団からひとり離れて、とぼとぼ足を運んでいる。ユーモアを発揮するどころか、発言する場面すらないのだろう。
……しかし、たったひとりだけいた。あの小泉純一郎元首相である。彼は講演の冒頭、こんな、おやじギャグを飛ばしたことがある。
「初めまして。『感動した』のコイズミです。しかし、みなさん、日本の政治は『菅、どうした?』といった状態ですね」
トニー・ブレアは自身の回顧録に「コイズミには驚いた」と記している。
05年夏、グレンイーグルズサミットでのことだ。フランスの独自性を追求するド・ゴール主義者、ジャック・シラク大統領は「料理がまずい国の人間は信用できない」と口を滑らせた(本人は否定)。
そして、サミット晩餐会である。ロンドン大学留学経験のある小泉元首相は食事が始まったとたん、シラク大統領に「Excellent English food, isn't it, Jacques?(ヘイ、ジャック。イギリスのメシは悪くないぜ)」と呼びかけたのである。
周囲にいた大統領や首相は天衣無縫のコイズミにあぜんとして、一瞬、きょとんとした後、どっと沸いたという。ほかにも、コイズミ・エピソードはいくつかあるのだが、いずれも稚気溢れる人柄が伝わってくる。
円滑なコミュニケーションのためには、「私は堅苦しい人間ではありません」というサインを相手に伝えることが必要だ。そして、ユーモラスな言動は相手の緊張をほぐすことができる。