早食いをスポーツにした

この大会から前人未到の6連覇を果たすと、実況アナウンサーは「The best athlete ever(史上最高のアスリート)」と呼んだ。

それまでレクリエーション要素の強かった大会に鮮烈に登場し、コンペティティブ・イーティングをエンタメのみならず、スポーツたらしめたコバヤシはまさにアメリカのスーパー・スターになった。「先駆者」でありながら「レジェンド」でもあるコバヤシに対して、同業者のみならず、多くの著名人がリスペクトを表明した。あのブルーノ・マーズも彼の大ファンであることを幾度となく公言している。

そして昨今、アメリカでは日本風「Izakaya」のブームが到来し、各地に店舗を増やしているが、多くの店でソーセージには「Kobayashi」という名前がつけられている。アメリカでは通常ソーセージはビーフかチキンが多く、ポーク・ソーセージは稀である。そのため、日本スタイルのポーク・ソーセージには、ソーセージを象徴するコバヤシの名前が与えられ、多くのアメリカ人がその意味をも理解しているというわけである。

ミニチュアの星条旗が刺してあるホットドッグ
写真=iStock.com/bhofack2
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そんなコバヤシもMLE(メジャー・リーグ・イーティング)との契約問題で2010年を最後にこの大会に出場していない。(半ば出入り禁止処分とも言われている)

そしてコバヤシに代わる存在として、シーンに登場したのがジョーイ・チェスナットだった。2007年から2023年まで16連覇を成し遂げる絶対王者で、数々の記録を打ち立てるまさに新・レジェンド。

ネトフリが試合を配信

しかし、チェスナットは今年、ヴィーガン用の食品を扱う「インポッシブル・フーズ」と契約を結んだことにより、ネイサンズの大会から出入り禁止処分を受ける。

すると今年6月、そんな出入り禁止処分を受けた新旧レジェンドのために最高の舞台が用意されることが発表された。ネットフリックスがコバヤシとチェスナットのホットドッグ早食いの配信を発表したのだ。題して『CHESTNUT vs. KOBAYASHI: Unfinished Beef(邦題は『チェスナットvs.小林 究極のホットバトル』)』。

この場合の「Beef」は「牛」と「罵り合い」という意味がかけられている。レジェンド同士のライバル関係を示唆するこの刺激的でウィッティなタイトルの一戦が行われるのは、これまた「バーベキュー日和」の祝日、9月2日のレイバーデイ。

発表のあった6月、多くのスポーツ・ニュースはもちろん、一般のニュースでさえもがこの対戦を取り上げた。

ネットフリックスも大々的にプロモーションを行っており、事実上のコバヤシの引退試合に華をそえる姿勢を見せている。

数々の偉業を成し遂げ、シーンを作った「レジェンド」タケル・コバヤシ。アメリカの国民食を誰よりも平らげた日本人「アスリート」のラスト・ランにアメリカが注目している。(追記:ジョーイ・チェスナットが世界記録となる83本を平らげ、コバヤシの66本を上回り「史上最強」の称号と賞金10万ドルを手にした。)