変わるためにはKYも必要である

グローバルに活躍する人材は、3つの要素を持つことが大切だと思います。

1つはスピード感、2つ目は異なる意見や違う考え方を受け入れる多様性、3つ目はチャレンジ精神。

特に、ダイバーシティ(多様性)は、企業として推進すべきです。ダイバーシティを導入すると、波風が立ち、最初は心地良いものではありません。しかし最初のヤマを乗り越えれば、間違いなく企業文化は変わります。内向きな文化は消え、組織は活性化します。

1990年代までの日産は、代表的な同質性の会社でした。居酒屋で当時の状況に危機感を持った私たちは、経営者の悪口を盛んに言い合いました。しかしその批判内容も言い方のトーンも「あ・うんの呼吸」で、毎回酒飲み話で終わってしまう。行動に結びつかないのです。

当時の経営陣はトヨタに追随する戦略が基本にあり、経営に自律した意思がありませんでした。しかし、現在の日産は、独自の価値観に基づいて活動しています。EVではNECと組んで世界の先頭を走り、主力のマーチをタイで生産、中国市場でも日本メーカーではトップ、さらに軽自動車でも三菱自工と提携しました。

もし、旧来の日本人の価値観だけで考えていたら、日本でマーチをつくりたいという話になっていたことでしょう。フロンティアで新しいことをやっていこうとしたときには波風が必要です。NECとのEV用の電池開発の現場では侃々諤々やり合っています。「空気を読めない」ことを気にしていては、新しい発想は出てきません。変わるためにはKYが必要なのです。同質性の居心地の良さからは、新しい価値は生まれないからです。

ただし、自分の意見だけを主張していたら国内でも海外でも通用しません。相手を理解し、受け入れなければ、やっていけないのです。上手に波風を立ててイノベーションを起こす。そうした姿が、日本人であろうが何だろうが、グローバルでも共感を呼び、人を動かすのです。

日産はダイバーシティをジェンダー(性別)から始めたわけですが、外国人や年齢、社歴など多様な人材が混ざった企業社会を形成しています。多様な職場が変化に対応する柔軟な価値観を生み、グローバルに活躍できる人材が育ちます。

グローバルと聞いただけで日本人は萎縮しがちですが、何も急に「グローバル人材」に変身する必要はありません。多様性の時代において、まずは自分が持っている個性を大切にすることです。そのうえで自分に足りないもの、例えばスピード感や相手を理解する力を補っていけば海外でもやっていけるはずです。

※すべて雑誌掲載当時

日産自動車COO 志賀俊之
1953年、和歌山県生まれ。和歌山県立那賀高校、大阪府立大学経済学部卒。76年、日産自動車入社。企画室長、アライアンス推進室長を経て2000年常務、05年最高執行責任者(COO)就任。
(永井 隆=構成 的野弘路=撮影)
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