代官山のブルワリーで「私も造ってみたい」

――設備が最新鋭となるほどに、実は人の五感が大切になるのですね。ビール産業に限らず、人手不足と効率化から、限定された部分の専門技術者が増えているようにも思えます。モノづくりでは、最終製品を本当はイメージする必要があるのに。

【南方】渋谷区代官山にクラフトビールの発信拠点であるビアホール「スプリングバレーブルワリー(SVB)東京」(2015年開店)があります。店内の小規模醸造施設を使い、横浜工場の技術者たちは自分で考えたビールを造れるのです。しかも、来店客に提供できる。貴重な実戦経験を踏め、クラフトマンシップを育めます。許されるなら、私も造ってみたい。

〈ライバル社の元役員は「アサヒとサントリーは投資会社になってきたが、キリンは酒類メーカー。技術者だった経営トップも生まれている」と指摘する。アサヒは海外の複数ビール会社を、サントリーは同じく米ウイスキー会社を、それぞれ一件が兆円超えのM&A(企業の合併買収)により、海外の売り上げ比率を高めた。対するキリンは、国内市場向けの酒づくりに、経営資源の多くを投入している〉

――キリンは豪州、ブラジル、そしてミャンマーと2007年以降に実行したM&Aが、いずれも躓いてしまいました。ミャンマーの場合は、軍事クーデターという不運に見舞われたのですが。

キリンホールディングスの南方健志社長・最高執行責任者(COO)
撮影=門間新弥

健康食品大手「ファンケル」買収の狙いは

――これら飲料・ビールのM&Aは、人口が減少している国内の市場成長が期待できないため、海外市場に活路を求めた。これに対し、今後の成長が見込めるヘルスサイエンスでは昨年、健康食品の豪ブラックモアズを約1700億円で買収。そして、9月にはファンケルへのTOB(株式公開買い付け)が3回目の期限延長の末に成立しました。

海外ファンドがファンケル株を買い増し介入していましたが、成立しない場合は「ブラックモアズへの投資を強化する」と仰っていた。

【南方】M&Aでは、いつもプランB、プランCを用意しています。ブラックモアズのPMI(M&A成立後の統合作業)を進めながらも、同社への投資を強化したり、新たなM&Aの可能性を探っていたりしました。幸いTOBは成立し、ファンケルと一緒になることでスキンケア分野での成長は期待できます。

――2023年12月期でのヘルスサイエンス事業の売上高は1034億円でした。ファンケルが完全子会社となったことで、今後の目標はどうなりますか?

【南方】2024年の目標は1468億円ですが、ファンケル社が加わったので2030年までに売上高3000億円を目指します。将来的には売上高5000億円で、事業利益率15%を目指す計画です。

このなかでも、プラズマ乳酸菌関連は23年12月期が前年比約4割増の200億円を達成しました。各カテゴリーが伸びたためです。24年も、前年比3割増と高い目標を設定。将来的には売り上げ規模500億円を目指し、投資を続けていきます。