キリンの強みは「長期目線での発明」

――酒類に限定しても、キリンによるイノベーションが立ち上げたものは多いです。特に「氷結」のヒット以降、他社の缶チューハイのほとんどがベース酒を甲類焼酎からウォッカに変えました。「焼酎をソーダで割るからチューハイ」という常識を壊した。しかし、RTDのブランドNo.1は「氷結」ですが、トータルではハイボール缶など有力ブランドを複数持つサントリーが首位。アルコールなしのビールテイスト飲料にしても、アサヒに抜かれています。

【南方】そこは課題ではあります。ただし、研究開発力はキリンの強み。R&D(研究開発)への投資を継続させ、これからもイノベーションを重ねていく。短期的なものだけではない、長期目線での発明や発見に挑戦していきます。それがキリンなのです。

――「氷結」によって広がったRTDですが、旧第3のビールをはじめビール類にとっては、破壊的イノベーションだったのではないでしょうか。RTDが成長し、ビール類市場を縮小させたのだから。

【南方】何を選ぶかは、お客さまが決めます。現状として、ビールから多様な酒に(消費者の)ニーズはシフトしています。お客さまが何を求めるのかを特定しながら、流れを先読みして商品を展開していきたい。いまは流れの中心にRTDはあり、飲みやすいアルコール飲料が若い層を中心に求められていると思います。

キリンホールディングスの南方健志社長・最高執行責任者(COO)
撮影=門間新弥

「日本人の酒離れ」は本当なのか

〈ビール類の市場規模は、ピークの1994年が約5億7300万箱(1箱は大瓶20本=12.66l)で725万kl、23年が約3億3559万箱(425万kl)なので、約300万kl減った計算だ。

94年当時、主に缶チューハイだったRTDは10万kl強の規模。「氷結」発売2年目の02年に35万kl、これが2023年は約157万kl(推定・前年比1.9%増)に。ビール類市場の約37%相当にまで拡大するが、両者を合算すると約582万klで約4億6000万箱。「スーパードライ」発売翌年の88年のビール類市場の4億4777万箱より大きい。

ビール類とRTDを合算した「発泡性低アルコール飲料」と捉えると、市場は4割もへこんだわけでもない。RTDは昨年の酒税改正でも350ml当たり28円のまま変わらず、26年10月には同35円。これは現在の発泡酒の酒税(同46.99円)より18.99円安く、26年10月の3回目で比べても、統一されるビール・発泡酒の同54.25円より19.25円も安い。

価格優位性から、ビール類ユーザーがRTDへと、流れ続けていくのかもしれない〉