自民党総裁選に注目が集まっている。どんな人が日本のリーダーにふさわしいのか。スピーチライターの千葉佳織さんは「政策の中身だけでなく、言葉の力、発信力をもったリーダーが必要だ。かつてのリーダーの中にも、人々に日本の現状を伝えながら『未来に進める』と期待させるスピーチの達人がいた」という――。

リーダーの「話し方」が日本の命運を左右する

自民党の総裁選挙を通じて、次の日本のリーダーが誰になるのか注目が集まっています。これまでの歴代総理大臣たちは、政策だけでなく、その「話し方」でも大きな影響を与えてきました。

強いリーダーシップを感じさせる力強いスピーチから、国民の共感を呼ぶ柔らかな語り口まで、話し方はリーダーの印象を大きく左右します。総理大臣にはスピーチで、時に国の方向性を示し、国民に希望や安心を与える役割があります。

時代に即した柔軟なコミュニケーションは、日本を導く鍵となるでしょう。

歴代のリーダーたちの「話し方」を振り返り、これからのリーダーに求められる素質や能力をひもといていきましょう。

国民の心をつかみ、時代を導いてきた3人の総理の話し方を振り返りながら、次期リーダーに求められる話し方について考えてみたいと思います。

柔らかい表現で「親近感」を印象づけた

第3位は安倍晋三氏です。

戦後最年少52歳で総理大臣となり、憲政史上最長となる約8年8カ月の間(第1次政権、第2次政権の通算)、政権を担いました。

安倍氏は、「自分らしさ」を状況に合わせて自然と出すことができる人です。彼が初めて自民党の総裁選に立候補し、のちに当選した2006年の所見発表演説は、こんな冒頭から始まりました。

「尊敬する同僚議員の皆様の前で、所信を述べさせていただくこと、大変光栄に存ずる次第であります。

私はこの場に立ちますと、11年前の総裁選挙を思い出します。小泉総理がはじめて、総裁に挑戦したあの選挙であります。

当時私は光栄にも、推薦人を代表して、小泉候補の推薦演説を述べる機会を与えていただきました。11年前ですから、今よりはだいぶ若く、それなりに初々しく、ですから、膝が震えたのを思い出すわけであります」

(2006年9月9日 安倍晋三氏 自民党総裁選の所見発表演説)

過去の自分を「初々しい」と評し、笑いが起きています。こういった、少し柔らかい表現をも、適切に配慮しながら話している印象を受けます。柔らかい表現を加えてお話をすることで、人柄を示して聞き手に親近感を感じさせることができるのです。